天然成分で高い効果を発揮する防虫用品を開発する、生活アートクラブ。「ムシさんバイバイ」シリーズを始め、幅広いラインナップがあるなかで、すべての商品の原点にあるのが、代表取締役 富士村夏樹氏の曽祖父の代から続いてきた、乳酸菌と腸内環境をテーマにした取り組みです。防虫用品の開発に至るまでの道のりと、今後の展開を伺いました。
過去の大変な経験も冗談まじりに話す、明るいエネルギーのある富士村社長。「僕自身、腸内環境を重視した食育や生活を徹底して育てられたので、58歳になる今までほとんど薬を飲んだことがなく、その影響を実感しています」と語る。
生活アートクラブの原点には、腸内環境というテーマがあります。私の家は曽祖父の代から乳酸菌の研究をしていました。曽祖父は医者で、日本初の乳酸菌の研究所を京都の太秦に作りました。祖父もその研究を受け継ぎ、そのなかで西本願寺の第22代門主、大谷光瑞氏と親交があったようです。大谷光瑞氏は国際色豊かな方で、シルクロードの仏跡発掘調査で有名です。仏教では、「乳・酪・生酥・熟酥・醍醐」という人間の本質を説いた教えがあります。これが乳酸菌の製造過程に合致しているということで、二人は意気投合したようです。祖父は農芸化学研究所を立ち上げ、昭和23年と昭和24年に、「国民体質改善と腸内細菌の重要性」という内容の講演をおこなっています。当時から、乳酸菌そのものよりもその産生物質が重要だという考えでした。腸内細菌という言葉は今でこそ一般的ですが、昔は認知度が低く、乳酸菌そのものを摂取すると良いという考えが一般的でした。
乳酸菌の研究に取り組んできた私の家系ですが、不幸な隔世遺伝というのか、曽祖父と祖父、祖父と父と、代々父子の仲が悪いということが繰り返されています。私も父と、会社の方針で対立しました。簡単にいうと、祖父や私は営業肌で、曽祖父や父は研究肌だったんです。もともと私は千趣会で営業として働いていたのですが、父が事業を拡大する際に役員として呼び戻されました。しかし、その事業拡大のための大規模な投資がきっかけで、会社の経営が悪化します。私は27歳で、会社の借入13億円以上の連帯保証人となりました。研究に関する父の理論はすばらしかったのですが、事業が成り立たないと皆が不幸になります。次第に父との対立が多くなり、私が35歳のとき、父を解任することになりました。そして、会社の借入について最高裁まで争い、最終的には互いに納得する決着がついたのですが、以来、父との関係は途絶えています。
当時、私は幼い2人の娘を育てるシングルファザーでした。子育てに家事、仕事もこなす状態が5年続いたころ、それでも一緒になりたいといってくれる女性が現れ、再婚します。裁判があったのは再婚後です。大変な時期でしたが、とにかく自分たちで何かやろうと妻と共に立ち上げたのが生活アートクラブです。会社の設立は2002年、私が40歳のときでした。
それまで、腸内環境というテーマに取り組んでいましたが、腸内環境を良くしようにも、地球環境や生活環境に有害なものがあると、体内環境をおびやかし、腸内環境も悪化します。だから、体内環境をおびやかすことのない日用品を普及させたいと思いました。生活アートクラブの最初の商品は、リサイクル石けんの「美葉うぉっしゅ」です。開発のきっかけは、環境問題を考えたときに、河川の浄化、森林の育成、土壌の再生という3つのテーマがあったこと。そのなかでも河川の浄化について、できることがあるのではと調べたところ、河川の汚染原因の二位が合成石けん、三位が天ぷら油ということがわかりました。そこで、使用済みの天ぷら油で石けんを作ることを考えます。そのとき、妻が教えてくれた、青森ヒバのことを思い出しました。ヒバは東北地方で昔から「蚊殺しの木」といわれ、ヒバで建てた家は、夏場に窓を開けていても、3年間は蚊や虫が入ってこないといわれます。それだけ強い殺菌成分が、ヒバから取れるヒバ油に含まれているんです。
「美葉うぉっしゅ」は、天ぷら油とヒバ油を合わせたリサイクル石けんとして誕生しました。ただ、販売してわかったのが、洗剤は重量がある一方で単価が安く、販売が難しいということ。そこで次の商品開発では、河川の汚染原因一位の農薬に着目しました。田畑に撒く農薬以外にも、殺虫剤や除草剤なども農薬で、田畑に撒くよりはるかに多い量が使われています。それらに代わる自然派の殺虫剤を作りたいと考え、青森ヒバを使って天然成分のみで開発した防虫用品が「ムシさんバイバイ」です。この商品からやっと事業が軌道に乗り始めたこともあり、特に思い入れの強い商品です。ところがその後の2012年、共に歩んできた妻が、乳がんのため44歳で亡くなります。ジェットコースターのような人生だと自分でも思いますね。妻の名前は、今でも創業者として載せています。
「ムシさんバイバイ」以降、社会への代案提示的な商品の取り扱いを進めました。現在、農薬を減らしたい青果生産者さんのために、青森ヒバを使った新しい商品も考えています。この3年ほどは、ジャンルを絞ったうえで食品も取り扱い始めています。そのひとつである、地域の特産品の取り扱いにあたり、水産資源の問題から地球環境を考えることになりました。「森は海の恋人」といわれますが、豊かな森の養分を含んだ水が海に注ぐことで、海は豊かになります。逆に森が荒れると、海も荒廃します。
スーパーで魚を買うときでも、どこの水産会社がどういう漁法で獲ったのか、どういう山を管理しているのか、そこまで考える時代がきてほしい。背景を知るということはとても大切なことで、売る側はそれを伝える必要があります。そういう、経営のあり方に責任をもつ企業が評価される時代を期待して、今後も仕事に取り組んでいきたいと思います。