桜が満開となった4月の週末。心あたたまる出会いがあった。
自転車で知人宅に届け物し、さぁ帰ろうとペダルを踏み込んだときだった。果物ではないけれど、「たわわに実る」という表現がぴったりなほどに花を咲かせた桜の木の枝が、目に飛び込んできた。
惹き付けられるままにペダルを漕ぐと、賀茂川(※)沿いの細い道に出た。自宅近くに、これほどまでに美しい桜並木があったとは…。そこには、遠く向こうまで桜のトンネルが広がっていた。
「そうだ、病院にいるNさんに桜を持って行こう」
入院中の知人が誕生日を迎えるため、この日はお見舞いではなく「お祝い」に行くことになっていた。しばらく外に出ることのできない彼女に、何かいい贈り物はないか考えていたが、日本の春を病室に運ぶことにした。ほんものの桜を間近で見られるように、花を持っていこう。
花見客で賑わうなか、枝をいただくのは気が引け、桜にも申し訳ないので、形と色のきれいな花を拾い集めることにした。きっと彼女も許してくれるだろう。
ふたつ、みっつと花を手にしたとき、年配の女性が「調べものでもなさるの?」と声を掛けてきた。わけを話すと、そばにいた孫の女の子を呼び寄せ、「きっと喜びなさるわ。私も入院していたことがあるからよくわかる」と一緒に桜を集めてくれた。「~~ちゃん、お姉ちゃんのためにきれいなお花を見つけてあげようね」と声をかけながら。
知らないふりの多い世の中で、思いがけず優しさにふれ、両手いっぱいになった桜同様、私の胸も感謝の気持ちでいっぱいになった。ありがとう。
桜の木の下でのふたりとの出会いと、病室で桜を目にした彼女の微笑みは、私の大切な宝物。
宮崎 美里