とても恥ずかしいことですが、意を決して告白しますと、弊社のオフィスには整理や掃除に関する社内基準がありません。ある方から「プレマさんの事務所はいつも散かってるね」といわれ、恥ずかしいというよりも、その通りだという気持ちになりました。物販を生業としている事務所ですから、あちこちから持ち込まれる新商品候補はもちろん、返品保証で帰ってきた品から、さまざまな書類に至るまで、いろいろなものが明確に決まったルールもなく、乱雑に置かれています。京都オフィスを引っ越したのが昨年八月、そして東京オフィスは今年三月の移転だったのですが、あれだけ始末したはずの不要品が、気を緩めるとあっという間にまた蓄積し、所狭しと場所を占領していく姿は、驚きでもあります。最近社内で起きているミスは、複雑な問題というよりも実にシンプルで単純なケアレスミスであること、その撲滅を図ろうと社内に告知した直後の「散らかっている」という言葉との出会いでしたので、これには深い意味が含まれているだろうと具体的に捉えることにしました。
小姑になる
もとをたどれば、私が会社にいる時間が長かった時代には、掃除用具をもってあちこちをうろうろするのが習慣でした。あるとき、「社長が掃除をしているのは小姑みたいで恰好悪いから、それは私たちに任せて、どんと構えてください」といわれました。ほんとうに小姑状態で、ホコリがどうだとか、気が緩んでいるとか、働いている人からすれば気分の悪くなるような話ばかりになってしまいますので、組織としてやっていこうとするならば、こういうことはあまり言わない方がいいかもしれないと多少納得してしまいました。以降、会社にいる時間は激減し、いろいろ気になりながらも、そのままにすることが多くなってしまいます。そこで改めて事務所における整理整頓や、清掃に関する基準の設定はどうやって行うのかと調べているうちに、5Sという概念を正確に知ることになります。もちろん、5Sが整理、整頓、清潔、清掃、しつけだということは知っていましたが、それが企業においてどれくらい大切か、また、最終的にお客様により多くの価値を提供できるという実例をたくさん読んで、やっと腑に落ちた感覚を得ることになりました。思い起こせば、物流センターの移転で大混乱に陥ったときにもまず掃除、宮古島で思うようにプロセスが進まないときにもまず掃除と、とにかく困ったらまず掃除、掃除と言い続け、実践してきたわりには、体系だった仕組みをもっていないというのは、おかしな話です。どこかで私が「小姑みたい」という、自らにつけられた形容詞に嫌気していたのかもしれません。
トイレ掃除と原則
5Sについて調べているうちに、ある大切なことを思い出しました。そういえば、自分は最初から会社を興そうと思っていた訳ではないこと、とにかく物事をうまく進めるためにはトイレ掃除と信じていたことです。創業前後はひたすらトイレに篭もって、トイレを磨くのが半ば趣味でした。当時読んだ本にそう書いてあったというくらいの動機ですが、今考えれば何もないところから何十万人というお客様に出会いがあったのも、これが起点だったのです。有名なイエローハット創業者の鍵山秀三郎さんの本なども読んではいましたが、やはり、会社でやるとなると、どこかで嫌われるのを恐れている気持ちがあり、「ものわかりのよい人」になってしまっていたようです。いろいろなことが乱雑になっているので、凡ミスが起きる。逆に、環境を物理的にしっかり整理整頓して、そこで仕事をすれば、一見複雑に見えることも、実は単純な原則に貫かれていることを実感できるはずです。家の汚れや乱雑さは、心の表れともいいますが、会社も同じことです。決めたことが実行されないことを、何となく空気感で許してしまった結果が、今起きている問題だとすれば、もう一度原則に立ち返りなさいよということなのでしょう。5Sをしっかり行うことは精神論ではなく、実に人間の脳の構造に照らし合わせ理にかなった方法であることを学び、感じています。数名のスタッフに「これから会社は5Sに取り組もうと思うんだけど」と、全体キックオフの事前に話していました。すると、早速家の整理・整頓をやってみた人がいます。「5Sの原則通り、まず整理からスタートしたら、掃除の時間が家まるごとで20分で済むようになって、ものすごく時間を得しました!」「本気の片付けをしていると、未来スペックの自分になる感じがしています」など、嬉しいメールがやってきます。まずは「いらないものは捨てる」からのスタートですが、この基準がないと、非常に混乱しますし、途中で投げ出したくなります。『人生がときめく片付けの魔法』で有名な近藤麻理恵さんの基準は「モノを手にした瞬間に“ときめく”かどうか」というわかりやすい基準で、これを聞いた我が子たちの決断はものすごい早さでした。会社の備品をときめきで仕分けすることはできませんから、これから緻密な基準の策定という作業が待っています。近藤さんは「片付けは祭り」であるといいます。祭りである以上、決めたらやる、やるといったらやるのです! 小姑ならぬ大将と思って、早速いらないものを捨ててみました。こうやって公にさせていただくことで、全員がここに向かえるよう、退路を断たせていただきました。