私たちの会社が本格的に創業した場所は、今も各種作業などで使っています。その場所は京都、太秦の広隆寺の目の前にあり、嵐電という路面も走るレトロな電車の駅に接しています。当時、私は事業をしようという野心はなく、露天から始めた仕事をホームページにしたところ、急激に注文をいただくようになって、背中を一気に押されるように場所の確保が必要になりました。そんなことで、縁あってこの鉄道駅の隣にやってきて、住みながら仕事をするようになったことが太秦との出合いのはじまりでした。ちなみに、広隆寺は秦河勝が聖徳太子から賜った仏像を本尊として建立した京都最古の寺(西暦603年)で、仏教や秦一族に関心や興味のある方には特別な場所になっています。いっぽう、嵐電の嵐山線が開通したのは明治時代(西暦1910年)のことで、特に広隆寺前を走る嵐電と楼門との組み合わせは鉄道マニアならだれでも立ち寄りたくなる写真スポットとして有名です。
そんな私たちの重要な場所に、青天の霹靂がありました。実は、私たちの創業地の隣には、私が場所を紹介したことがご縁で、2001年から障害者就労継続支援施設「やまぶき共同作業所」があります。過去、何度か本誌でも特集でご紹介してきた施設で、プレマのかなりの量の仕事を請け負っていただいていますので、一度でも弊社でお買い物をしていただいた方であれば、この共同作業所の利用者さんが関わったなにかを受け取っていただいていることになります。もう20年以上一緒に歩んできましたので、「プレマが発展すれば、やまぶきさんが発展する。やまぶきさんが発展すると、ハンディキャップのある方の就労機会が増える」を合い言葉に、その関係をずっと継続してきました。この作業所の作業スペースは私たちの創業地よりさらに奥にあり、利用者さんは嵐電や、このホームを通過して徒歩で毎日の作業に向かいます。その駅ホームと私有地の間にフェンス(バリア)を建設したいと連絡があったのです。
本来の目的はどこへ
この観光名所にある駅は、春秋の観光シーズンの週末には、ものすごい数の人が押し寄せてきます。この2年ほどはその混雑度が飛躍的に上がってしまい、狭いホームから落ちる人も続出するほど混むのです。
この写真をご覧ください。この位置にバリアを作って、乗客が私たちの利用する私有地側に入らないように工事したいというのです。私はここに長年いますので、どれだけ危険な場所かをよく知っています。この工事の目的が、バリアフリー化を目的とする国土交通省の補助金獲得が目的だと聞かされました。写真を見て、想像してみてください。このホームに溢れんばかりの観光客が押し寄せ、そこを車椅子の人や杖をついた方が奥の作業所に行こうとするわけです。どう考えても、ここにバリアを作ってしまえば、私有地側に人が逃げることができず、押し合いになれば鉄道が通る線路に落ちることになります。ホームドアの建設なら理解できますが、わざわざ人の逃げ場所と通路を封じる工事について「バリアフリー化工事にご理解をお願いしたい」という説明を聞かされたのです。
各種補助金や助成金については、その不正受給が問題になり、国のお金を狙って私腹を肥やすために使う不届き者がたくさんいます。もちろん、本件はそのような不正受給ではありませんが、そもそも障がい者が多数行き来する場所の往来を封じてバリアを建設し、それでバリアフリー補助金を獲得しようとする意味が私には理解できないのです。今後、このバリアの建設で困るやまぶき共同作業所さんや私たちも交渉に臨むことになるのですが、乗客は待つ場所が少なくなり、この奥を利用している人も困って、だれも喜ばない工事を国の予算で実行するという、よくわからない現実があることを知っていただきたいのです。同様のことは、この国に溢れていることでしょう。目的を見失った計画や行動と、それに単なる無駄金が使われている現実がどこにでも転がっているのが、残念でなりません。最後になりましたが、やまぶき共同作業所さんに新たな軽作業を依頼していただける事業者様がおられましたら、ぜひ私までご連絡をお待ちしています。