好きでも嫌いでもないけど 大切な人
わが息子の生後間もないころのことです。
乳児湿疹がなかなか引かず、妻と民間療法などをして右往左往していました。
当時はサラリーマンだった私が、知人の紹介で受診した小児科で事は起こります。
診察室に入ると小児科医は、息子の顔を一瞥(いちべつ)しただけで
「アトピー性皮膚炎」とカルテに記載しました。
その間、わずか数秒。
「はい、じゃあね、おクスリ出しますから」
「いやいやちょっと待ってください」
「ん?お父さんがアトピーという言葉にアレルギー反応を示すのかな」
「はぁ」
……そんなやり取りの後、こちらから伝えたのは次のような言葉。
私のことをアレルギー反応と言おうが構わない、ただ父親としてこの子を守る義務がある。
失礼を承知で伝えるが、あなたの診察では納得がいかないので、医療機関を紹介してほしい。
医者はちゃんと診てくれるもの、という常識が崩れた瞬間でした。
小児科医にとっては意地もあったのでしょう。
紹介されたのは、小児科の総本山ともいえる、兵庫県立こども病院アレルギー科長でした。
そして、ここで「アレルギーではない」と診断が覆ることになります。
一方で「原因はわからない」とも。
それから相談に乗ってくれる周囲の人たちにも恵まれ、
息子の湿疹はその後わずか3カ月でツルツルになり、
いまや受験の年を迎えるところまで成長してくれました。
これを機に、伝統療法、陰陽論などを深く学び始め、
脱サラ、再度の学生生活、師匠の下での修行を重ね、現在の私の姿があります。
「成長するというのは、世界に対する認識の仕方が変わることである」
ハーバード教育大学院教授のロバート・キーガン博士は
著書『Immunity toChange』のなかで述べています。
私にとっては、病気は医者に治してもらうものから、
自分で治すものへと認識が変わったと言えます。
子を持つ親として自分が変わることでしかこの子を守れないと確信したのです。
やがて、きっと同じような悩みを抱えて困っている人たちがいることだろう、
そういう人たちのためにも、先に経験したものとして、
何か少しでもお役に立てる力をつけたいと思うようになっていきました。
おかげさまで、現在では小児はり治療で学会での症例発表をさせていただけるほどになり、
息子と似たような症状のお子さん・親御さんのお役に立てるようになってきたかなと
実感できるようになりました。
もしも、最初に受診した小児科医がていねいに診てくれていたら、
いまの私の姿はないのかも知れません。
当時は嫌な想いをしたけれど、それも今では「おかげさま」。
本当なら「おかげで私の人生は変わりました。
すべてはあなたの嫌味のおかげです」と、お礼に伺いたいくらいなのですが、
それも良い迷惑にしかならなさそうなので、直接お礼をすることは控え、
この場で間接的に伝えることにします。
汝の敵を愛せよ
宗教に救いを求めても余計に苦しむことになったという人の話を聞いたことがあります。
嫌いな存在を「好きにならなければならない」と思えば思うほど、
そうなれない自分を責めてしまうというのです。
好きになろうと努力するのではなく、その執着を離れること。
人を好きになるのも嫌いになるのも、自由なことのはず。
それでも自分が本当に変われたとき、その人を好きにはなれなくとも、
大切な人と思えるようにはなれる。
経験から、私はそう感じています。
圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー
西下 圭一
(にしした けいいち)
新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。
年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは
「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。
自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評があり
プロ選手やトップアスリートに支持されている。
兵庫県明石市大久保町福田2-1-18サングリーン大久保1F
HP:http://kei-shinkyu.com