今年1月末のジェラートコンテスト終了後、私はさらなる食の勉強のためドイツの首都ベルリンのヴィーガンフード巡りをしました。1989年にベルリンの壁が崩壊して20年近く、遮られていた東西ベルリンは当然のように人々が往来し、隔てられいたからこその自由謳歌の空気が流れ、目にするものすべてが前衛的な街で驚きました。
アメリカであればビールを屋外で公然と飲むということは、それ自体が非合法であり、日本であれば電車内でビールをあおれば冷たい目で見られますが、ベルリンではその行為は当たり前のこと。見慣れた自転車やペットたちの乗車とともに、社内で水を飲むかのごとく酒を飲む光景は、ある意味で新鮮に映りました。
そういえば、以前台湾に行った際に電車で水を飲んでいると、乗客から「社内飲食禁止」と書いた紙を指さして注意されたことがあります。相当ストイックな公共意識で、日本人の私でも驚くくらいの遵法心ですが、国が違えば常識はこれくらい違うということを垣間見る瞬間でもあります。そうかと思えば、欧州の大抵の国では道路を横断しようと立っていると、車はほぼ確実に停車してくれます。日本なら信号機のない横断歩道で道を渡るためには相当な忍耐とリスクをとる必要があり、これもまた常識やマナー意識の違いといえるでしょう。
ベルリン・リアライズ
そんな自由の空気が流れるベルリンの街は、またヴィーガンフードの聖地でもあります。動物性素材を一切使わないヴィーガンの市民権が保障され、どのレストランやカフェでも大抵ヴィーガン対応メニューを用意していますし、専門店も数多くあります。
欧州の国のいくつかではメニューのなかに一定比率のヴィーガン食を入れない限り飲食業許可すら得られないとの話を聞いたこともあり、食制限があると、とかく生きにくい日本の事情とは全く違います。生き方としてのヴィーガンを選択する人は宗教の有無、または種類を問いません。これがハラール食(イスラム教適合食)、コーシャー食(ユダヤ教適合食食)、ベジタリアン食(仏教、ジャイナ教、ヒンドゥ教適合食)などとは根本的に違うところで、多くのヴィーガンたちは自覚的な年齢になってからそれを選択しており、産まれてからずっと動物由来食を食べたことがないという人は、むしろ少数派かもしれません。
このような事情から、欧米のヴィーガン食は非常に進歩的で、かつて食べたことがある動物食特有のニュアンスをうまく表現したものとなっているというのが私の感じているところです。それは私の世界食べ歩き分析によれば、ミルキーさ、濃厚さ、ダイナミックさ、(動物的な)しっかりした食感、焦げた感じなどであり、それを補完するためにより強い甘さや塩味、スパイシーな印象を持たせるようにしてあります。
日本に極少数存在するヴィーガン・ベジタリアンレストランなどでは日本人の感性やマクロビオティックをベースにしている関係からか、これらの欧米人ヴィーガンが潜在的に、また不文律として求めている要素が反映されていることは希です。超ヘルシー志向の人にとってはこれらの日本風ヴィーガン食は理想的かもしれませんが、人は常に聖人君子でいることが難しいのと同じように、動物は決して食べないけれど、たまにはがっつりと、しかもジャンクな雰囲気を楽しみたいという気持ちを持つのは当然のことだと思います。
そんなこともあって、私は1年ほど前までは未知の世界であったジェラートの道を志し、動物性素材を一切使わないというジェラート常識外のレシピで国際コンテストに出場し、2部門で世界ランクされることになりました。これらの経験から明確に理解したことはこのような味覚とアレンジの差であり、これを体現するフードミックスなレストランを国際観光都市となった京都でスタートするという、次の目標を補ってくれる経験となっています。
未経験者だけで取り組む
このレストラン、名前は目指しているところを表現しようとすると大仰になってしまいましたが、「プレマルシェ・ピッツェリア&オルタナティブ・ジャンク?」と名付けました。私も料理長候補の河崎も調理経験はゼロですので、準備の毎日がまさにカオスです。
メニューも混沌としており、とにかく外国人にも日本人にも見たことのないようなものばかりで取り組もうとしており、「オープンはいつですか?」という一言がとてもプレッシャーになる一方で、期待値の高さを感じています。日本人も外国人も大好きなジェラート、スイーツからピッツァ、バーガーやファストフードまでを、極上素材の組み合わせで表現しようと試みています。現時点までに試食いただいた方からは「調理はプロっぽくはないけれど、どれだけ食べても体が軽くて不思議」という声をいただいており、一定の手応えを感じています。
ひっそりとオープンして、徐々にメニューを増やす形で取り組む予定です。食を通じた相互理解、そして世界平和の実現という、たいそうなチャレンジを、ぜひ、応援してください。