子どものころから、牛乳は体に良いといわれてよく飲んできました。でも最近、牛乳など乳製品は体に良くないという話を聞き、心配になっています。実際のところ、どうなのでしょうか?(チーズやヨーグルトも好きな会社員)
A.あくまで嗜好品。無理に飲まなくても良い。
答える人 プレマ株式会社 お客様コンサルティングセクション 岸江 治次
10年ほど前に、医師の新谷弘実さんが牛乳の害を指摘して以降、さまざまな文献で牛乳の害が論じられるようになりました。新谷先生はニューヨークで胃腸内視鏡学のパイオニアとして活躍された方で、30万件以上の内視鏡検査を通じ、腸内環境の状態が悪い患者には、日頃から乳製品をたくさん食べているという共通点があることを発見されました。
マクロビオティックでは、乳製品を「食べなくても良い」と言っていますが、食べてはいけないとは言っていません。ただ、牛乳を飲まないとカルシウム不足になるとか、栄養が偏るという話は、正しくありません。アレルギーがある人や、牛乳を飲むと調子が悪くなる人、牛乳が嫌いな人が、無理に牛乳を飲む必要はないのです。
「フードファディズム」という言葉があります。食べ物や栄養に対して、科学的根拠がないのに過大評価をし、妄信的に信じることを指す言葉です。マクロビオティックは、栄養学者たちからフードファディズムだと批判されることがあります。しかし、牛乳が健康に良いとする今の栄養学に基づいた「牛乳神話」こそ、フードファディズムに近いものがあると思います。牛乳でカルシウムを補給できるのなら、カルシウム不足が原因の骨粗しょう症などの病気は牛乳の消費量とともに減少しているはずですが、日本では牛乳が普及するほど骨粗しょう症が増えています。少なくとも日本人の体質に、乳製品は合っていません。
日本は四季のある温暖な気候の島国で、いろいろな野菜を育てることができ、海では海藻や小魚を取り、カルシウム補給をしてきました。しかし北欧などでは、野菜があまり育たず、牧草になるような草しか育ちません。そこで牧草を牛に食べさせ、その栄養を人間が取り込むという形で、畜産文化が発達しました。牛乳が健康に良いというのは、ヨーロッパの栄養学からきています。風土の違う日本で、同じように牛乳が健康に良いとは限りません。実際、日本人の多くは、牛乳の栄養分を分解する酵素をもっていません。それが本来の体質なのですが、欧米の栄養学では「乳糖不耐症」と病気のような言い方をされてしまいます。
日本の畜産では、気候的に一部の地域を除き牧草が育たないため、輸入大豆やとうもろこしなどの穀物を牛に食べさます。しかし、牛には草を食べるための歯である門歯しかなく、穀物を無理に食べさせていることになります。また、日本では放牧をせず、「しばり牛舎」という、牛を牛舎にずっとつないで育てる畜産が一般的です。この環境下では、牛乳の衛生状態を保つために高温殺菌の必要があります。また、牛にストレスがかかり病気になりやすいため抗生物質を投与し、さらに効率的な搾乳のため成長ホルモンも投与します。そうやって育った牛のミルクは、きわめて不自然なのではないでしょうか。
牛乳とは文字通り「牛の乳」です。乳は、血液が変化したもので、これは人間も同じです。しかし、人間の体を構成するための栄養素と、牛の子を育てるための栄養素には根本的な違いがあります。人間も牛も「哺乳類」ですが、哺乳類のなかで、成人してからほかの種の乳を飲むのは人間だけです。これも不自然なことです。
マクロビオティックでは、牛乳はあくまでも嗜好品。アレルギーや体の不調がなければ、お菓子やお酒のように楽しむのは良いと思いますが、健康にプラスを期待してはいけません。畜産が盛んなヨーロッパでさえ、牛乳を飲まないという人が増えています。今後、牛乳に関するエビデンスがさらに増え、「牛乳を飲まなくても良い」ということが一般的になるのではないかと思います。