弁護士の中核的な業務は、現存する法律を解釈・適用することによって、具体的な事案を解決することです。しかし、こうした中核的な業務以外にも、弁護士の仕事は存在します。前号ではそのひとつ、弁護士が立法へ関与する場合をご紹介しました。他には、法律上の紛争を予防するための活動も挙げられます。すでに発生した問題を解決するための活動ではなく、問題の発生自体を防ぐための仕事です。
そのなかで近年脚光を浴びているのが、法教育です。たとえば、弁護士が学校を訪問して法律に関する授業を実施することが、その典型例です。
弁護士が担う授業は人権問題、労働問題、消費者問題など多岐にわたりますが、なかでも学校からのニーズが高いのが、いじめ防止授業です。私も先日、小学校で授業をおこないました。
そこで今回は、いじめの問題を取り上げたいと思います。ただ1回で解説するのは難しいので、今回はいじめに関する法律を紹介することとし、いじめ防止授業の内容については、次回以降にお話ししたいと思います。
いじめ防止対策推進法
「いじめ」について規定されている法律は、「いじめ防止対策推進法」です(以下、「法」といいます)。この法律は、滋賀県大津市で発生した痛ましいいじめの事件をきっかけに制定され、平成25年に施行されました。いじめが許されないものであること、文部科学大臣がいじめ防止基本方針を定めること、学校がいじめ防止のために調査や必要な措置を講ずべきことなどが規定されています。
「いじめ」の定義
ところで、「いじめ」とはなんでしょう。これについては、法2条1項に定義が規定されています。これによると、「いじめ」は、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じておこなわれるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」となります。
この定義のなかには、いくつかポイントがあります。まず、一般に、いじめというのは集団で1人の児童や生徒に対しておこなうものをイメージしがちですが、法は、そのような限定を設けていません。すなわち、1人対1人の場合でも、いじめに該当しうることになります。
次に、いじめは一般に、継続的におこなわれることが少なくありませんが、法は、この点にも限定を設けていません。すなわち、1回だけの行為であっても、いじめに該当しうることになります。
また、定義に規定されている「行為」には、悪口を言ったり、叩いたりするような積極的な行為のみならず、無視をしたり、仲間外れにしたりするようなものも含まれます。
そして、最も重要なのは、法が、「当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」と規定していること、すなわち、いじめの該当性を、被害を受けた児童や生徒の主観により判断している点です。したがって、第三者が客観的に見ると、いじめとはいいにくいような行為であっても、被害を受けた児童や生徒が苦痛を受けていれば、いじめに該当しうることになるのです。なお、この「心身の苦痛を感じているもの」の規定については、法が制定される際に、衆議院と参議院の両院から、「限定して解釈されることのないよう努めること」という内容の附帯決議がなされています。
以上が、いじめの定義のポイントです。これを踏まえて、次回以降、弁護士によるいじめ防止授業について、ご紹介したいと思います。