京都の7月といえば、祇園祭。子どものころは祇園祭が嫌いだった。通学路は人だらけで渋滞するし、なによりあの「コンチキチン」の音色が古くさくて心地が悪くて仕方なかった。30年前の私は新しいもの、海外のものがカッコよくて、古い日本の伝統的な文化はダサいと思っていたのだ。でも、大人になるとその価値観が変わっていった。
きっかけは前職での経験が大きい。東京に来る前は、ホイル包ハンバーグとトマトサラダで名の知れた洋食レストランに勤めていた。明治時代創業のお店だ。入社すると、創業者がどんな思いでこの店を始めたのか、そして、いままでどんな道のりを歩んできたのかを徹底的に教え込まれる。そのなかで私の心を揺さぶる言葉を教えてもらった。会長の何気ない質問だ。「ねぇ、どうして私たちのお店は百年以上続いていると思う?」え?と思ってすぐに答えは出なかった。百年続く理由……。たまたま気づいたら百年経ってたのちゃうんか? 理由があるんか? 結局考えても答えられなかった。すると、会長はゆっくりとこう言った。「それはね、続けようと思ったからだよ」
「続けようと思ったから」私は驚いた。確かにその通りなのだ。百年の間、いろいろなことが起きただろう。第二次世界大戦も起きた、でも中断してもまたお店を続けようと、その時代の人たちが思ったのだ。誰かが続けることをやめてしまったら、そこで終わっていたのだ。なんとしても続けようという人々の思いが形となって現在に続いていると実感した瞬間だった。
もちろん思いだけでは続かない。さまざまな続けられない理由が出てきただろう。でも、やめるかどうかの瀬戸際に立ったとき、続けようと思った。そして、続けるために力を尽くした。そういう人々がいてくれたことを思うと胸が熱くなる。
ふと、祇園祭を思う。今年で1159年目になる祇園祭も幾度となく中断し、それでも現在に続いている。数年前は150年振りに大船鉾が巡行に復帰し、今年は鷹山が196年振りに復帰する。京都人のこのエネルギーはどこから湧いてくるのだろうか。美しく荘厳な山鉾に魅了されるだけでなく、こうした町衆の熱い思いに多くの人が心惹かれるのだろう。もちろん、いまでは私もその一人だ。
そして、プレマ株式会社も今年で23年目。末長く続く会社であって欲しいと思うとともに、日々の私たちの営みが次の十年、二十年と続くものだと思うと、身の引き締まる思いがする。
プレマルシェ・ジェラテリア中目黒駅前店 店長
小室 美穂(こむろ みほ)
京都生まれ東京暮らし5年目。アイシングクッキー作りを学び始め、繊細な作業に不器用さが優って悪戦苦闘しながらもモノづくりの楽しさを味わっています。旦那さんとネットで美味しいお店を探してお出かけも楽しみ。