ラオスのシンボルと言えば、首都ビエンチャンに建つ黄金の仏塔、タートルアンです。国章や紙幣にも印刷されており、高さは約45m。ビエンチャン最大級の高さです。その起源は紀元前三世紀までさかのぼると言われています。一時、中国の侵攻によって破壊されたものの、1930年代に修復され、現在でも太陽の光を受けながら、輝き続けています。
そのタートルアンが一年でもっとも活気づくのが、毎年旧暦十二月の満月の日までの約一週間にわたり行われる、「タートルアン祭」です。この期間、広場には各種出店がひしめき合い、ラオス中に限らず近隣諸国からも観光客が詰めかけ、普段穏やかなビエンチャンの町が一日中お祭りムード一色に染まるのです。
祭には大きく二つの行事があります。一つめは寺の境内にて、満月の日の朝に行われる大読経会と托鉢。夜が明ける前から、人々はラオ民族の衣装を纏いタートルアンの境内に詣でます。男性は絹のシャツにパービアンと呼ばれる肩から斜めにかける布。女性は絹のシャツと絹のラオス式巻きスカートです。これらの服装は仏閣に参拝する際の正装なのです。手にはお布施にするご飯、果物、お菓子や現金、花やろうそくの入った籠を持っています。そして境内に跪くと、高僧の読経と共に儀式が始まります。朝日が昇るころに高らかに響く読経と、一面に跪く敬虔な仏教徒の祈りの光景は壮観であり、ラオス人の信心深さを思い知らされます。
読経会のあとにはラオス中から集まった僧侶たちへの托鉢です。この日のために上京し、タートルアン境内で寝泊まりしていた僧侶たちは千人以上にのぼります。境内だけでは収まりきれないので周辺の道端に特設でテーブルを設け、そこに鉢をおいて喜捨を募ります。信者たちにとってはそれこそが徳を積む行為であり、僧侶の毎日の生活を支えることになるので、普段から喜捨を惜しみませんが、祭ともなれば財布のひもも緩み一層気前も良くなります。
二つめは最終行事となる、満月の夜のヴィエンティアンと呼ばれる行事です。朝と同じく正装した人々がろうそく、花の入った籠を手に、タートルアンへ参拝に訪れます。境内にはいると皆、ろうそくに火を灯し、火が消えないように気をつけながら、タートルアンの周囲を三周まわります。願い事を念じながらゆっくりとまわり、火が消えなければ願いが叶うと言われています。ヴィエンティアン自体は毎月の満月の夜に行われているそうですが、ラオス最大の祭の行事ともなればとにかく華やか。一年でこの時だけライトアップされて光り輝く黄金の仏塔は神々しささえ感じさせ、満月の光とも相まってより一層輝いて見えます。クライマックスには花火も打ち上げられ、人々の熱気も最高潮。興奮冷めやらぬままに、惜しまれながら祭は幕を閉じます。
普段人が少ないビエンチャンの町ですが、祭のときはラオス中から人が集まっているのではと思えるほどの大混雑。しかしそれは単なるお祭り騒ぎではなく、しっかりとラオスの人々の信心に根付いた仏教行事なのです。
駒崎 奉子
駒崎 奉子氏 ラオス・ビエンチャン在住3年。大学卒業後、日本での社会人経験を経てラオスへ渡り、日本語教師をつとめる。現在は日本人学校で教える傍ら、ラオス語翻訳や文筆活動も積極的に手がけている。 「こまごめ」は大学時代に名字からつけられたあだ名。 |