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子どもと情緒

野村 隆哉 (のむら たかや)

1939年生まれ。京都大学農学部林学科卒業、京都大学大学院農学研究科博士課程中退。京都大学木質科学研究所助手。京都大学退官後、株式会社野村隆哉研究所、アトリエ・オータン設立。専門分野は木材物理学、木文学。木工作家。木のオモチャ作りもおこなう。朝日現代クラフト、旭川美術館招待作家。グッドデザイン選定、京都府新伝統産業認定。楽器用材研究会主宰。著作として『木のおもちゃ考』『木のひみつ』などがある。

【Vol.39】アナログとデジタル(2)バーチャルリアリティー

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前回の副題であった?アナログとデジタル?の問題は、考えれば考えるほど無明の闇に入り込んで行くようで気が重くなる。この問題に警鐘を鳴らしても現代文明の巨大な潮流(メガ・トレンド)を押し止めることがほとんど不可能に近いことが目に見えているからである。それでも書かなければならないと思うのは、私が生来のお節介焼きなのだろう。

お節介焼きといえばこんな事があった。今年の3月15日、山の中で一人の男を拾った。実は、3月12日から通勤途中の山中の道脇に軽自動車が止まっているのに気付いていた。15日になってもその場所に止まっているので、気になって車内をのぞいて見ると、男がハンドルにもたれ掛って眠っているようであった。その数ヶ月前、私の研究所の近くで車の中で服毒自殺をした女性を発見していたものだから、てっきり自殺しているのだろうと思って窓を叩いた。有難いことに、まだ生きていたので、研究所に連れて行き、落ち着くまでここに留まるよう伝えた。後で判ったことだが、これが何とアスペルガー症候群(高機能自閉症)の典型的な患者だった。私と出会う8日前に精神病院を退院し、自殺をしようと山中で思い悩んでいたようだ。我ながらお節介焼きの性分にあきれてしまったが、不思議とこの手合いに出会うのは神の思し召しなのだろうか。このような実体験が重なる中で、同じような現状があちこちで起きているのではと考えざるを得なくなった。この男は5ヶ月と半月研究所に居候して真面目に働いてくれていた。ところが9月2日に再び自殺を試み、これも私が見付けて救急車で病院に運んだ。兄夫婦が引き取りに来て1ヶ月過ぎても何の連絡も無かったが、10月4日に本人から連絡があり、研究所での仕事は辞めたいので荷物を引き取りに行きたいとの事。この出来事は、又一つ私の人生経験に貴重な知恵を授けてくれた。

前述した例はどうも先天的な障害かもしれないが、このような先天的な場合は別として、後天的に高機能性障害やアスペルガー症候群に陥る引き金になるものを三つ挙げることが出来る。一つ目は持って生まれた内向的な性格、二つ目は、都市生活での界隈の崩壊による近隣相互およびこどものコミュニティーの消滅、最後が社会のデジタル化ではないかと考えている。これら三つの要因が相補的、相乗的に機能することでアスペルガー症状は一挙に進む。一般的にアスペルガー症候群の男女比率は3:1で男の方が多いようである。これは男女の身体的、生理的機能の成熟の差が反映されていると考えられる。女性の場合は、こどもを生み、育てるという母性から、本能的に自己防衛のための周囲とのバランスを身に付けることが早い。しかし、男の場合はある程度意識付けし、訓練しなければオスには成れないところがある。動物の世界では、力が無ければ一生メスと交尾できない場合が多々ある上、メスも種の保存のために弱いオスは受け入れないという明確な鉄則が存在する。ところが、この鉄則は現代文明世界のヒト属という動物では無用のものになりつつあるようだ。核家族化、少子化、マンションの閉鎖空間、その他文明社会が未必の故意として生み出した人間性に対する阻害要因が蜘蛛の巣のように張り巡らされた都市空間、生活空間で、他人との対話の出来ないこどもたちが次々と作り出されてくるのである。特に、意識付けしないとオスになれない男性は中性化しコンピューターゲームに没頭し、3Dを含むバーチャルリアリティーの世界で巨大なアスペルガー症候群団が作られていくのである。その一方で、これまでの社会組織は旧態然としたまま存続し続けている。学校も同様であるが、ここにアスペルガー症候群団が大挙して押し寄せれば現場はお手上げであろう。

人間の知・情・意をコントロールし、バランスを取るための機能を司る情緒中枢が自覚症状無しに退化あるいは破壊されていく一方で、自己中心的な欲望を充足させる手段として究極のデジタル化によるバーチャルリアリティーの世界に埋没する人間が伝染病のように増えていく光景を想像していただきたい。このような連中が現実のリアリティーに直面すると即アスペルガー症候群となる。これは正に、文明病でも悪質な伝染病と考えられるが、文明化した医学では病としての意識は無くほとんど対応できていない。さて、どうするか。次回の最終稿は頭の痛いことになった。

- 子どもと情緒 - 2010年11月発刊 Vol.39

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