今号ではプライベートガイドでご案内する「来間ガー」をご紹介します。カーとは、沖縄の方言で井戸のこと。珊瑚礁が隆起してできた宮古諸島には、山も川もありません。雨水は大地の珊瑚の層に浸透し、水を通さない泥岩層にぶつかって地下に川をつくり海に流れ出します。その湧水ポイントが来間ガーで、宮古諸島の離島、来間島の生活用水を支えてきました。来間ガーは、海岸近くの集落から約40mの断層崖の崖下にあります。集落から来間ガーへ水汲みに行く「カーウリ」をしていた歴史は、1975年に宮古島本島から海底送水されるころまで数百年を数えます。
カーウリは女性や子どもの仕事とされ、足元の悪いおよそ100段の石段を辿って、「多いときは1日に12回も往復していた」といいます。みんな決まった場所に足をかけるために、石の一部だけが磨耗してツヤがあったといいます。おばあたちに当時の様子を訊くと「今考えると、よくやっていたよねぇ」としみじみ仰います。貴重な水資源の管理のためにカー番と呼ばれる見張り役が交代制でおこなわれていたのですが、とても怖い想いをさせられた記憶も、生々しく残しておられます。
重労働を嫌だと思う気持ちはあっても、生活の一部を支えているという誇りも子どもながらにあっただろうと思います。金銭や物品で支払いができない人は、カーウリの仕事を支払いやお礼に充てていたほどに、生活に密着していました。宮古島のおばあの、隣人に対する無条件のやさしさは、厳しい時代を乗り越えてきた精神の強さに礎があるように感じます。
蛇口をひねれば綺麗な水が出てくる便利さに慣れきっていて、私たちが日常生活のなかで水の大切さに気づく機会はありません。生活に必要な1日の水量は100Lとされるなか、日本人は200L使っていますが、お風呂に180L、洗濯に110Lなどの数字を並べてみると頷けます。しかし、崖下にカーウリに行くことを前提とすると、こんな使い方ができないことも明らかです。
かつてオイルショックのときに世界経済は混乱に陥りましたが、資源の奪い合いの状況は今も変わりません。宮古諸島の小さな島のちょっと昔のできごとが世界の縮図のようにも見えてきます。
おばあたちに当時の様子を感慨深くお伺いしました