優生保護法に基づいて強制的に不妊手術を受けさせられた方たちが、2018年以降、全国各地で国家賠償請求訴訟を提起し、現在も複数の裁判所に訴訟が係属しています。
そんななか、今年の2月22日に、大阪高等裁判所で、初めての高裁判決が言い渡されました。しかも、各地の地方裁判所で棄却された国家賠償請求を初めて認める内容の画期的な判決でした。
優生保護法被害
優生保護法は、1948年に成立し、1996年まで日本に存在した法律です。この法律は、障害者に対して強制的に不妊手術をおこなうことなどを規定しており、実際に、この法律に基づき強制的に不妊手術を受けた障害者の方が、多数存在しました。
このように、障害者の方が子をもうける自由を奪い、その尊厳を傷つける法律が、幸福追求権(憲法13条)や平等権(憲法14条)を保障する憲法に違反することは明白です。
しかし、優生保護法被害に関する事実は、その手術がなされた当時、社会に広く知られていたわけではなく、手術を受けさせられた方やそのご家族も声を上げることが困難でした。
そうしたところ、2018年になって、被害を受けた方が初めて国家賠償請求訴訟を提起し、これにより、優生保護法の問題が広く社会に共有されるようになりました。そして、その後は複数の被害者の方により、全国各地で国家賠償請求訴訟が提起されており、既にいくつかの地方裁判所で第一審判決が出ています。
先ほど述べたように、優生保護法が憲法違反であることは明白であり、そのこと自体は多くの地裁判決が認めるところです。しかし、これまで言い渡されたすべての地裁判決で、原告の請求は棄却されました。その理由は、「除斥期間」の経過です。
除斥期間
除斥期間というのは、権利行使をしなければならない期間のことです。一定の時の経過により請求ができなくなるという点で、時効に似ている側面がありますが、重要な点に違いがあり、それが、これまで地裁判決により国家賠償訴訟が棄却された理由です。
具体的に説明すると、時効は、単に一定の時が経過しただけで成立するのではなく、時効により利益を受ける者が、「援用」する必要があります。要するに、時効の利益を受ける意思を自ら表明しなければなりません。このように、時効の利益を受ける者の行為が介在することから、「権利の濫用」などの理由で、時効の援用が認められないことがあり得るのです。
他方、除斥期間の場合には、「援用」の必要がなく、一定の時が経過すると、自動的に権利行使が排除されます。そのため、その利益を受ける者の「権利の濫用」などの概念が入り込む余地がありません。
ところで、不法行為による損害賠償請求については、不法行為のときから20年が経過すると損害賠償請求ができなくなると民法に定められています。2017年の民法改正により、この20年の期間は時効とされましたが、改正前民法においては、除斥期間であるとされていました。そして、優生保護法被害についての国家賠償請求においては、改正前の民法の規定が適用されます。そのため、既に被害から20年以上を経過した優生保護法被害についての国家賠償請求は、除斥期間の経過を理由に棄却されてきたのです。
優生保護法被害の問題に携わる弁護士にとって、この除斥期間の問題が最大の課題でした。そして、冒頭でご紹介した大阪高裁判決で、ついにこの除斥期間の問題を突破したのです。
次回、大阪高裁判決の具体的な内容について、ご紹介したいと思います。