今号ではプライベートガイドでご案内する「マルキヨ味噌」をご紹介します。マルキヨ味噌は、宮古島で天然麹菌で作る昔ながらの宮古みそを製造販売しています。
発酵食品の代表格として、日本食に欠くことのできない味噌ですが、『手前味噌』の言葉の通り、かつては各家庭で味噌を仕込む自慢の味がありました。工程はシンプルで、原料は大豆・麦・塩のみ。焚き上げた大豆に、麦麹と塩を混ぜ合わせ、半年から1年かけて大豆を発酵、熟成させて作ります。
味噌の特徴を決定する最大の要素は、やはり新たな命を吹き込む麹菌です。マルキヨ味噌の麹室には、代々守り継がれてきた麹菌が今も静かに息づいています。蒸し上がった大麦を人肌に冷ましてから、麹室で棚に拡げます。4、5日経つと大麦の表面がびっしりと緑色の麹菌に覆われます。麦麹の誕生です。
マルキヨ味噌の創業者の下地キヨさんにとっても、代々引き継いできだ麹で作る自慢の味噌でした。お孫さんであり、現在お店を守っておられる下地康信さんに引き継ぐ際も、『これだけはねぇ。おばあの仕事だよ。』と言って麹の状態だけはいつも気にかけておられたそうです。
康信さんに代替わりして、時代の変化に歩調を合わせて、味噌作りも進化していきます。機械の導入により、大豆と麹を合わせる仕込みの生産効率を改善し、生産量を確保できるようになりました。また、康信さんの東京やロサンゼルスの日本料理店での料理人としての勤務経験が衛生管理に活かされ、徹底されています。康信さんが大きな変化と言われるのが、薪釜からガス釜への変更。薪ように揺らぎながら鍋を包み込む火の回り方は、ガス火には真似ができないと言います。しかし、変えないのは、麹菌と味噌の品質。ご訪問した際、何度も慎重に火加減と水加減を調整しながら、丁寧に大豆を焚き上げあげる様子が印象的でした。
見学の最後に、鰹節と味噌を入れてお湯を注ぐ味噌汁『かちゅー湯』をいただくと、人がつないできた悠久の時の流れと麹菌、この目に見えないものの価値を深く感じます。
代々引き継がれてきた生命の源。美しい緑色の麹