雨が降る前日に身体が重くなる、台風がくるのを身体で感じるなど、湿気が多くなると体調に変化を感じることがある。それは身体がなにを教えてくれているのだろうか。
東洋医学では、湿気を多く含んだ重い空気が、五臓六腑でいう消化機能の「脾胃」に影響しやすく、身体の水捌けが悪くなる「水滞」を感じやすくなるからだともいわれている。気象の変化による天気頭痛には「五苓散」という漢方薬が効果がある。それは沢瀉(サジオモダカの塊茎)、蒼朮(オケラの根茎)、茯苓(マツホドの菌核)、猪苓(チョレイマイタケの菌核)、桂皮(肉桂の樹皮)で構成されている。細胞と細胞の間にある余剰の水分を血中に引き込むことで、利尿を促し、水の停滞を減らす作用があるといわれている。
もう一つ、この時期ならではの生薬は、青梅を薫蒸して乾燥した烏梅だ。今でも昔ながらの製法で丁寧に作っている所が奈良にある。青梅には青酸があり、生食すると腹痛になることもあるので注意が必要だが、熟すると青酸は蒸散する。そして、梅の未熟な果実にはリンゴ酸が多く含まれ、成熟した果実にはクエン酸が多く含まれる。そういった未熟なうちに動物に食べられないようにするための梅の絶妙な変化に、植物の生き抜くスゴさを感じて頭が下がる思いになる。
いまでは烏梅を日常使いするのは難しいが、湿気が多くなるこれからの時期は、胃腸をととのえる助けとして、梅干しや梅肉エキス、梅の黒焼きなどがいい。さらに、水の流れを悪化させないよう白砂糖の摂りすぎは控えて、自然な甘味をほどほどにしながら、食事は腹八分目にし、しっかり咀嚼して消化機能への影響を最小限にすることで、湿気の多い時期を少しでも楽に過ごしていきたい。
言葉からわかること
ときどき患者さんとの会話で「こんなに食事にも生活にも気をつけているのに、思うように改善しないので、がっかりする」「症状が悪化して、くやしくなる」「痛みが取れなくて、こわくなる」などと聞くことがある。そこには心のなかのモヤモヤの感情が、「がっかりする」「くやしくなる」「こわくなる」という言葉で表れている。それと同時に、その人の症状の捉え方が伝わってくる。こういった不意に発している言葉には、身体のどこがととのうことを必要としているのかを教えてくれている気がしている。自分では最大限の取り組みをしているにもかかわらず、思うように良くならないという状況で、自分で自分を、意識や思いで追い込んでいることが、結構多い気がしている。
東洋医学では、診断名を探るというより、どうして症状が起こるのかを探ろうとする。それは外からと内からの影響が、気や血液、水の流れの停滞にどのように関与しているのかということ。そして、思い悩むことは脾胃に関係していると考えられていて、脾胃が悪くなると、思い悩み、くよくよしやすくなるともいわれている。
思い悩むより優しくありたい
身体の症状がつらいと絶望的にもなるが、身体からの自分へのメッセージとして症状を出さざるをえない状況であることも事実である。だから、「まだまだなんだな、教えてくれてありがたいな」というように、身体の内なる声に自分が一番優しくあれたら、「いま自分がさらに楽になるためにはなにができるのか」という問いを自分に向け続けていく、覚悟や決意のような意識が、大切なように感じるのだ。
私自身も身体がつらいときほど難しくなるが、「まだまだ気づけていないことがあるなぁ」「教えてくれてありがたいなぁ」と、呪文のように心のなかで唱えながら眠るようにしている。心身は相互に関係していると、自分の身体や心を観察していて感じるのだ。