ながれるようにととのえる
身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話
やくも診療所 院長・医師
眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階
春の気配とゆるまる心
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寒さが強まってきた。冬のピリッと背中が正されるような雰囲気が好きだ。そして、次第に冷たい空気と少し春の気配が混ざり合ってくる。芽を出そうとするふきのとうを見つけると、エネルギーの象徴のようでワクワクする。
ふきのとうは、款冬花という生薬である。ふきのとうには身体を温める性質があり、痰を出し咳を止める作用がある。さらに、咳に使用される生薬には杏仁がある。それは杏の種子(仁)で、硬い殻を割って取り出したものである。種子に苦味がある苦杏仁を薬として使用している。甘味のある甜杏仁は、杏仁豆腐などのお菓子に用いられているが、漢方では乾いた咳やねばって濃い痰を伴う咳のときに、肺を潤しながら痰を出す咳止めや、腸を潤して排便を容易にする効果があるといわれている。漢方では、肺と大腸は関連するとされ、咳止め薬と便秘薬が共通の生薬であることも興味深いところである。また、桑白皮は、桑の根からコルク層を除去した根皮である。これも咳止めやむくみを減らすときに使用される。どれも自然が残る里山などでは身近にあるものだが、これらに咳止めの効能があることを知っている人は減ってきているのかもしれない。残念ながら、都会ではふきのとうや杏の木、桑の木を見ることはほぼない。先人達の植物を活かす知恵に触れると、なんだか心からの感謝を伝えたくなる。
漢方の古典である『素問霊枢』には、秋冬は陰の気が多くなるので、体力を養う時期と記されている。昨年末はインフルエンザA型の感染者数が増加していたようだ。年末年始を休むために、いつも以上に多忙になる。さらに忘年会や新年会などで慌ただしくなるので、消耗しやすくなる。だからこそ、この時期はゆったりと過ごす養生の時間が必要なのだ。
道端に見つける春へ向かう小さな変化は、植物や生物の「今、ここに生きているぞ」という力強いエネルギーを感じずにはいられない。都会のなかにいると難しいが、自然の移ろいに身を任せ、大地とともに素朴に生きることが、これからの私のテーマかもしれないとつくづく感じる。