土鍋で炊いた玄米はおいしい。そういわれても、特に不思議に思わないかもしれませんが、実は数十年前まで当たり前のことではなかったのです。「玄米をおいしく炊きたい」その想いから生まれたのが「マスタークック」です。土鍋炊飯のおいしさを追求したその形、そして白い土鍋というのは、発売当時、とても斬新なものでした。このマスタークックを生み出した、健康綜合開発株式会社 代表取締役 小林伸吉 氏にお話を伺いました。
代表取締役の小林伸吉氏(写真右)と、息子で取締役営業部長の小林伸太郎氏(写真左)。お二人とスタッフの方で協力して商品を広めている。伸太郎氏が生まれたのがちょうどマスタークックが誕生した年だという
マスタークックを生み出すきっかけになったのが玄米食です。私は10代のときに重篤な病にかかり、健康回復のためさまざまな健康法や食事療養を学びました。その際、健康効果という点で特に心惹かれたのが玄米食でした。そのころは玄米というと圧力鍋で炊くのが常識でした。しかし当時、圧力鍋で炊いた玄米ご飯は茶褐色で独特の臭いがあり、ボロボロとしてまずく、口に入れるにはあまりにも抵抗があるものでした。そのことがきっかけで、「体に良い玄米をもっとおいしく炊けないのか」という疑問をもちました。
その後、水や空気の浄化の仕事に携わるようになったのですが、玄米をおいしく炊きたいという想いがずっとありました。玄米を炊いたときの色や臭いが問題だったのですが、水や空気の無味無臭の世界はあまりに分析が難しく、足踏みをしていました。しかしあるとき、同時に研究をしていたセラミックスについて、「セラミックスの出す遠赤外線でおいしく玄米が炊けるのではないか」と思い当たったのです。それから、遠赤外線を放射するセラミックプレートや土鍋を一心不乱に考案していき、無数の炊飯実験をおこない、セラミックスのもつ有効性を学びました。そして、玄米をおいしく炊くために理想的な形状、材質、強度、使い勝手、炊飯効果が導き出され、37年前にマスタークックが生まれました。その製造法は発売当初から今まで変わっていません。ただ、原材料の土は時期によって変化するものなので、釉薬の調合に調整が必要になるなど、コントロールが大変なところもあります。その製造工程は職人の手によるところが多く、厳密にいえば一つとして同じものはないのです。
開発の際、セラミックスに加えて注目したのが、「かまど」炊きです。「かまど」で炊いたご飯がおいしいのは、「羽釜」を使うからです。当時、土鍋というと寄せ鍋に使う浅い鍋が一般的でしたが、マスタークックは羽釜を参考に深鍋にしました。また、厚みのある構造も大きな特徴です。肉厚の土鍋は冷めにくく、余熱を利用できます。
セラミックスの効果と深鍋で肉厚な構造により、マスタークックで玄米を炊くと、炊き上がったご飯にカニ穴ができ、ご飯が立っています。これは、ご飯がおいしく炊けている証明です。また、玄米でも白米のように白く良い香りがして、ふっくらとおいしく炊き上がります。
もともとは玄米をおいしく炊くため生み出したマスタークックですが、煮物、蒸し物、炒め物などさまざまな料理に使えます。肉厚の土鍋は食材をゆっくり加熱するため、食材の甘味やうま味を十分に引き出すことができます。しかも冷めにくく、余熱で食材にしっかり味がしみます。そのため、砂糖や化学調味料を使う必要がなくなります。10代のときに病気を患い、そういったものの害は身をもって感じていました。
マスタークックを世に出すなかで、私は、人と土器(土鍋)は豊かな食生活を作るために欠かせないものだと考えるようになりました。人間は、火と土器を使って穀物を煮炊きすることで、消化が短時間でできるようになり、大脳が進化したという説もあります。また日本の縄文時代は、火と土器を使ったからこそ、一万年以上も豊かな時代が続いたのではないかと考えています。
健康に貢献する正しい食事というのは、質の高い栄養と味を兼ね備えたものでなければなりません。そうでなければ長続きしませんし、そもそも体に良いはずがありません。そしてそれは、良質な調理道具による適切な調理なくしては不可能だと思います。マスタークックによる調理は、誰もが毎日、簡単に実践できる健康法なのです。
圧力鍋で玄米を炊くことが常識だった時代に、マスタークックは土鍋炊飯のおいしさを世に問うものとなりました。その形と、白い土鍋というのも新しい点でした。私自身、どこか改革精神があったのかもしれません。
発売後、最初は私が過去に働いていた自然食品店で販売を始めました。マスタークックは慣れればとても楽に使えるのですが、吸水性の高さなど、使用時に土鍋ならではの注意点もあります。そういったことも知ったうえで使っていただきたかったので、小売店で少しずつ販売を始めました。そこから料理教室の先生などが紹介してくださり、少しずつ口コミで広めていただいた感じです。発売当初は3種類だったラインナップは、ご愛用いただいている方の声を取り入れながら、今では10種類以上に増えています。調理によって使いわけてくださる方も多いです。
マスタークックはとても丈夫で長く使えるものです。白く吸水性が高いため、煮物などの色がつきやすく、そのことでお問い合わせを頂くこともあります。しかしこのことは、むしろ調理に良い影響を与えます。これは怪我の功名とでもいえるところで、マスタークックを何年も使い続けると、染み込んだ煮汁が炭素化され、黒炭のようになります。これは、「炭火の遠赤外線効果」が土鍋で作られた状態なのです。また、土鍋の外側も調理によって年月とともに色が変っていきますので、「土鍋を育てる」という感覚で愛情をもって使っていただけたら嬉しいです。