先月号でお子さんのあざ治療を早期におこなう重要性について書きました。あざやシミをレーザーで治療するという認識は一般に周知されるようになりました。形成外科は皮膚表面をきれいにする診療科でもありますので、当院でも大人のシミに対するレーザー治療をおこなっています。「若く美しくありたい」という思いで来院される患者様のご希望に沿うため、レーザー治療だけでも多岐にわたり、さらにそのほかの治療法を組み合わせ、最善と思う方法を提案します。
まず若く美しくあるには、なにを改善すればよいのかを整理してみます。「瞼を二重にしたい」「鼻の形を変えたい」などのご希望は加齢の影響もありますが、顔の造りの問題を含みますので今回は触れません。抗老化(アンチエイジング)の観点から考える「若く美しくありたい」とは、大きく分類して『色』(シミ、くすみ、赤ら顔、くまなど)と『形』(しわ、たるみ、毛穴の開き、くま)などが挙げられます。今回は最も相談が多いシミについて書きます。
シミを分類して考える
私は30年ほど前に自身の治療経験からシミを「器質性のシミ」と「機能性のシミ」の2種類に分類しました。
「器質性のシミ」は、老人性のシミやイボのように正常な組織でないものができたり、遅発性の青アザのように、ある細胞があるべきところ以外に存在するもので、レーザー照射もしくは外科的に取り除くことでき、比較的短い治療期間で良好な結果を得ることができます。
「機能性のシミ」は顕微鏡で組織を見ても形や形態的な異常がなく、メラニン産生細胞のメラニン産生機能が更新しているだけのもので、肝斑、炎症後や擦り過ぎによる色素沈着などが挙げられます。これらはレーザーで表皮を剥がすなどの刺激を与えると、その後かえって色素が増強し悪化しますので、刺激を与えないように扱わなければなりません。内服や美白成分の外用や経皮導入などの保存的な方法で治療をします。レーザーを使う場合は保存的療法をおこなったうえで注意深くおこなう必要があります。
1998年から日本で初めて使用する機会に恵まれていたIPL装置を用い、2000年に顔全体に光を照射することによりシミを薄くする方法を始めました。シミのない部分(顔全体)にも光を照射することにより、シミを薄くするだけでなく、顔色全体が明るくなる、小じわが浅くなる、毛穴が目立たなくなる、ハリがでるなど、肌全体の若返り効果が得られ、さらにシミのレーザー治療では必須であった術後の絆創膏処置が不要、当日からメイクが可能ということも患者様の需要と合致し、すぐに大変人気の治療となりました。装置販売会社の宣伝も効を奏し、一般の方にも医療施設にも爆発的な広がりを見せた結果、シミに対する専門の知識をもたない施設にも普及するという事態となり「何回もIPL治療を受けたけれど良くならない」「かえって悪化した」と悪評が立つようになりました。
レーザーはどんなシミでも一瞬で消す魔法の装置ではありません。シミの成り立ちを熟知した医師がいる専門の施設で治療をおこなわないと結局悪化することになりかねません。
当院では内服薬、外用剤、美白成分の経皮導入、メディカルエステ、高濃度ビタミンC点滴、さらに栄養状態の解析など、多くの選択肢を準備し、患者様の状態を診察し希望を伺いながら治療の提案をしています。治療に時間がかかる種類のシミであっても気長に通っていただいた結果、初診時と比べ年齢を重ねたはずの今のほうが「若く美しい」肌をしていらっしゃる例は珍しくありません。
次回以降からは個別のシミと主な治療法、しわ、たるみ、毛穴の開き、くまなどの『形』の問題について書く予定です。よろしければご覧ください。