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ながれるようにととのえる

身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話

やくも診療所 院長・医師

石井恵美 (いしいえみ)

眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階

小さな希望をみつける

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漢方の考えでは、夏は心臓と関係があるとされている。万物が成長する夏は陽の気が盛んになるため、人もそれに対応するため陽気を発散する。この陽気が一番多い臓器が心臓で、夏に一番活発に動くのである。また、熱を発散するために汗が出る。この汗一つをとってみても、非常に奥が深い。気持ちの良い汗、冷や汗、盗汗(寝汗)、多汗、手足の汗、頭汗、緊張の汗、漢方独特の表現では黄汗などいろいろな汗がある。夏を少しでも気持ちよく乗りきるには、いい汗をかけているかどうかが養生法として、とても重要だ。

「どんなに暑くても、だんぜん東京の夏が好き」という冷え性の患者さんがいるが、おそらく彼女はごく少数派だ。都心では室内で冷房が強めに設定されていることが多く、6月ごろから外と内では極端に温度差のある生活が始まる。私は冷房のよく効いた所では下から冷えてくるので、下半身の冷え対策を日々探っている。お腹がほわーっと温かくなる助けになるものはとてもありがたい。漢方薬では、蒸して干した生姜は乾姜といってお腹を温める作用がある。山椒にもお腹を温める作用があり、冷えにより腸の動きが悪くなるときなどに使用される「大建中湯」という薬は、乾姜、山椒、人参(オタネニンジンの根)、膠飴(うるち米を蒸し麦芽アミラーゼを用いてデンプンを分解し糖化・精製した飴)でできている。最近では、外科の術後の腸閉塞予防にも使用される。長時間冷房下にいる際には、山椒や乾姜などを食事で摂るのも、お腹を内から温める助けになる。昔、バリ島のプールで泳いだ後に、よく温かいジンジャーティーをすすめられた。すぐにお腹が温かくなり気持ちよく、現地の人達の生活の工夫を感じられて腑に落ちた記憶がある。

夏の猛暑の際に、自宅の冷房の温度を17度くらいに設定していないと暑くて過ごせない患者さんがいる。外が40度近い時期には一歩外に出るのも困難で、夏の外来にはやっとの思いで来院してくれている。その患者さんは、身体の芯に非常に強い煩熱(ほてり)があり、最初は氷や冷たいものしか食べられないほどだった。いっしょに少しずつ身体への取り組みを試行錯誤しており、昨年の夏は冷房の設定温度を23度で過ごせるようになった。彼女の様子を見ていると、真夏に少しでも楽に過ごすには、猛暑となる前から少しずついい汗をかけているかどうかが重要であると実感している。

患者と医師の関係を醸成する

自覚症状はもちろん、日々少しずつ変化している「感情」も、自分の身体の声であり、心の声であると最近はつくづく感じている。

診察室という場は、医師と患者の間に、上下関係のような雰囲気や、本音が語りにくい緊張感が意図せず生まれやすい。ときにはそれが助けになることもある。しかし、患者が自分の身体や心の声に気づき楽になる方法を探すには、指示や答えを待つだけの受け身な姿勢では、越えられない壁のようものがあるのではないだろうか。診察室という空間について探り続けているが、心地よさだけではどうにもならない、お互いが醸し出す空気感のようなものは、どちらか一方だけでは作れないものだとつくづく感じる。発酵食品のように、お互いに丁寧に醸成させていくことが重要なんだろうと思うのだ。

身体も心も日々変化している。そんな自然な変化を丁寧に観察しながら、楽になるヒントを探るのはやはり自分。小さな変化に丁寧に気づき、その変化に小さな喜びを見出し、小さな希望をもてること。これらは、私が患者さんから教えてもらった、自分を自分で追い込まずに楽に生きる秘訣だ。

深く考えるのも億劫になる湿度と暑さだが、「だいじょうぶだよ、ぼちぼちいこうよ」と、自分が自分にやさしく声をかけながら、この夏は自然のなかでぼーっとする時間をつくりたい。

- ながれるようにととのえる - 2022年8月発刊 vol.179

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