お茶の時間に楽しみを添えてくれる和菓子。株式会社美濃与は、和菓子原料の専門問屋として京都から全国各地へ四季折々の原料を販売しています。京都の菓子職人に鍛えられたという最上の品質を追求する姿勢、そして伝統的な食材を使って斬新な商品を生みだすことへの思いを伺いました。
大学卒業後は5年間、乳製品メーカーの中沢乳業に勤務。その経験が和菓子と洋菓子の融合のアイデアに役立っている。新商品の開発では社内が活気づくのが嬉しいと話す
明治35年に京都で和菓子の原材料問屋として創業し、今年で120周年を迎えました。古くから京菓子に使われてきた「きな粉」を中心に、小豆や黒豆、餅米などの穀類や、蕨、よもぎ、栗といった四季折々の原料を全国各地にご提供しています。
ご存じのように、京都には茶席菓子から日常に食す餅菓子を扱う菓子屋まで、季節や年中行事を映し出した和菓子を楽しむ文化が受け継がれています。私たちは、それを支える菓子職人さんたちの卓越した技術と知恵にふれ、素材の吟味の仕方や使い方などを徹底的に教えていただきながら、おのずと最高品質の原料を追い求めてきました。
小豆であれば、最高級品とされる「丹波大納言」をひと鞘ずつ手獲りしたものを。餅米は、コシが強く甘みがあり餅米の王様といわれる「滋賀羽二重糯」を。どちらも契約栽培していただいています。原料となる農作物は私たちのいわば生命線です。生産者の方々に最終商品をお持ちして見ていただいたり、菓子屋さんも交えた交流の場を設けるなどして、信頼していただける関係づくりをめざしています。
看板商品である「美濃与きな粉」は、原料となる大豆を120種類以上に及ぶ品種のなかからきな粉に最適な品種を選ぶことに始まり、きな粉の舌触りをよくするために大豆の外皮を取り除くことや、焙煎や粉砕に至るまで、徹底して品質向上に努めています。さらに、きな粉はできた瞬間から香りや風味が劣化していくので、できたての味をお届けするために、少量で使いきれる容量で販売しています。ほかの食材でもそうですが、先代、先々代から、とにかく一品の美味しさを限界まで追求することを教えられてきました。
きな粉といえば、全国の和菓子や洋菓子にも用いられる身近な素材ですが、わらび餅や大福にまぶしたり、かけたりする脇役のようなものとして、そこまで味の違いに注目したことがないかもしれません。でも実は、原料や製法の違いはもとより、食品との組み合わせ方によっても美味しさがすごく変わるものなのです。たとえば京都銘菓の八つ橋に使われるきな粉と、信玄餅に使われるきな粉はまったく違います。和菓子ではきめ細かな食感や甘さが好まれますが、洋菓子では逆にきめの粗さや苦味を求められることもあります。
時代とともに食文化が多様化したことや、海外から和食が注目されるようになったことで、国内外の菓子原料のニーズも大きく変遷してきました。そこで、2019年に長年の念願であった大豆の専用工場を京都の伏見区に建設しました。一切のコンタミネーションなしに大豆だけを加工する工場はほかにないと思います。問屋が製造工場を持つのは珍しいことですが、自社で製造するからこそ、どんな細かなご要望にも応えられるようになりました。
しかし、工場の完成と同時にコロナ禍となり、想定ほど稼働率が上がらなかったんです。そんなときに工場長が「空いた時間に、こんなものを作ってみました」と持ってきたのが、大豆コーヒーでした。以前、東京の展示会で見て印象に残っていたそうです。うちの工場なら原料は豊富にあるし、豆の焙煎から粉砕までできるのでいいアイデアだと思いました。とはいえ、最初の試作品はとても美味しいとはいえず、そこから何杯でも飲みたくなるような味を追求するべく試行錯誤が始まりました。そんななか、プレマの中川社長と出会い、当社の大豆コーヒーに高い可能性を感じてくださいました。そこから中川社長の知恵もお借りして、焙煎方法やフィルターが目詰まりしてしまうなどの課題を一つひとつ解決していき、ようやく完成したのが弊社とプレマさんとのコラボ商品である「ビヨンドコーヒー」です。おかげさまで、当初からは考えられないような仕上がりになりました。
大豆コーヒーはノンカフェインなので、女性や高齢者をはじめ、健康を気づかうどなたにも召し上がっていただけます。ある80代の男性は、これを飲んで「懐かしい」と仰ったんです。戦時中、コーヒーを飲みたくても手に入らないので自分で大豆を煎ってコーヒー代りに飲んでいたそうです。最近では、ヘルシーなデザートを提供する飲食店や、ヴィーガンの方々などにも興味を持っていただいて、大豆コーヒーを通じて新しい出会いやコラボレーションが生まれているので、すごく嬉しいですね。
先代である父は新しいものが好きで、「とにかくほかにないものを作る」がモットーでした。問屋ながら、自社の研究室を持ち、周囲のご要望にお応えする形で、使いやすい和菓子原料などの新商品を生み出してきました。私は、大豆コーヒーにヒントを得て、小豆や栗などの和菓子の原料が、形を変えればまったく新しい商品になり得るという可能性に気づきました。近々、黒豆コーヒーと小豆茶も販売する予定です。また、卸だけでなく個人のお客様向けにオンラインショップを始めました。振り返ってみると、コロナはピンチでもありましたが、私たちにとって転機になったと思います。
もともとお菓子は、人々に安らぎをもたらすものとして重宝されてきました。私たちがご提供するお菓子やお茶が「休憩文化」を支え、慌ただしい日常のなかで、ホッと自分に戻る時間に寄り添えるものであるように、これからも挑戦し続けていきたいと思います。
※食品製造の際、原材料としては使用していないにもかかわらず、特定原材料等が意図せずして最終加工食品に混入する場合があること