先日、京都アバンギルドのFOuR DANCERS vol.248というイベントに出演し、優生保護法の問題をテーマとした作品を踊りました。
このコラムでご紹介したこともありましたが、私はこれまで何度か、優生保護法の問題をテーマとした作品を作り、踊る機会がありました。そのときは、主に舞踏家の由良部正美さんとの共作・共演でしたが、今回は、ソロで踊ることにしました。
また、これまで作ってきた作品がかなり抽象性の高いものだったのに対し、今回は、時折言葉を用いながら、直接的・具体的にこのテーマを表現してみました。
作品の背景
これまで何度かこのコラムでも取り上げてきましたが、改めて紹介すると、優生保護法は、1996年まで日本に存在した法律です。この法律は、障害者に対して強制的に不妊手術をおこなうことなどを規定しており、実際に、障害者の方に対する強制不妊手術が実施されていました。
この法律がおぞましいことは、もはや論ずるまでもないことだと思いますが、この法律に関しては、もう一つ大きな問題が存在しています。それは、優生保護法に基づく強制不妊手術についての公文書に関する問題です。
私たちは、優生保護法被害のような人権侵害が繰り返されないようにするためにも、手術対象者の属性や、その方に手術がなされた経緯など、過去になされた強制不妊手術の実態を解明する必要があると思います。そして、そのためには、強制不妊手術について記録された公文書を紐解くことが不可欠です。
しかし、行政機関において、強制不妊手術に関する記録がほとんど残されていないという問題があります。
のみならず、残されている数少ない記録について、行政機関に対して情報公開請求をしたとしても、公開される文書の大部分にマスキングが施されることがあります。
こうした強制不妊手術に関する情報公開の範囲をめぐって、現在、訴訟も係属しています。これについては、またいつかこのコラムで取り上げたいと考えています。
作品の構成
こうした背景を踏まえて、今回の作品について、簡単にご紹介したいと思います。
まず冒頭、暗い舞台の上で、私が壁に無数の黒いガムテープを貼り付ける場面からスタートしました。公文書のマスキングを思わせる場面です。
この場面では、照明をオフの状態にしたので、ガムテープを手で引いたり、切ったりする音や、それを壁に手で貼り付ける音、人の動くわずかな影だけが、会場のお客さんに感じられたのではないかと思います。
その後、優生保護法の歴史や、現在の国家賠償請求訴訟の現状、さらには情報公開の問題について説明する音声を流し、それとあわせて少しずつ舞台を明るくし、私は、黒いワンピースを纏って踊りました。
後半は、被害者の方の苦悩などの想いを想像し、私自身の感情との重なりを確かめながら、情緒的に踊りました。
散文的な説明と情緒的なダンスを重ね合わせることにより、作品全体が散漫になったかもしれませんし、逆に作品にある種の深みが生まれていたかもしれません。いずれにせよ、自分なりにこのテーマとの関わり方を探究する過程で生まれた作品です。