人の感情を変えることをテーマにした製品を取り扱って17年以上になります。しかし、これまで「感情とは何か?」を上手に説明した本にはあまりお目にかかったことがありません。大人から子供まで、誰もが日ごろから深く馴染んでいるものなのに、それを説明しようとする言葉は極端に少ないのです。
その理由はいったい何かと考えてみると、自分に近すぎるものは説明しにくいという、人の想像力と言葉の限界があるような気がします。
言葉は「物事」それ自体を伝えるのではなくて、概念を伝えるものです。
「概念」と「物事」の何が違うのかと言えば、例えば、今目の前にある「リンゴ」は実は世界でたった1つのリンゴです。1個しかないという意味ではありません。その色や、傷、形、ニオイとまったく同じものはどこにもないということです。人間もまた一人ひとりが個別的で、他の誰とも比較できないその人だけしかいない存在なのに、人は「人間」というひとくくりで同じものとみてしまいます。そうしないと、そこに意味を与えることができないからです。また、そうしないと人と人を比較することもできません。
人は今、この瞬間に生きています。今、生命の炎が燃えているこの瞬間しか実は存在していません。その繰り返しが私たちの体感している現実そのものです。しかし、今この瞬間は、すべてを含んだ圧倒的な情報を持っています。そこに意味を与えるためには、自分が見たい側面だけを切り取る必要があります。すべてを説明することは結局、何も説明しないことと同じだからです。物事が多面的で、さまざまな見方や解釈ができる理由はここにあります。
言葉を獲得するまで、人は進化することができませんでした。私は趣味で化石を蒐集しているのですが、地球の歴史は約46億年です。今から40億年前は1日がたった6時間しかありませんでした。そのころは地球の自転が圧倒的に速く、そのせいで地上ではいつももの凄い強風が吹き荒れていたはずです。地球の自転はその後徐々に遅くなり、今から10億年後には1日がだいたい30時間になります。恐竜は約2億年前に現われ、6500万年前に絶滅しました。しかし、約1億年以上地球に適応していました。一方、人類はというと、約20万年前にネアンデルタール人が現われ、3万年前には絶滅しています。われわれ現生人類の直接の祖先であるクロマニヨン人は、10万年前に現れ、長い間、アフリカの海岸の洞窟に留まっていました。氷河期がずっと続いていて、その個体数は激減して絶滅しかかっていたのですが、約5万年前に幸運にも氷河期が終わり、そこから世界中に広まり、今は70億人です。この今の文明の5万年がどのくらいのスケールと言うと、46億年を1年間に換算してみると、5万年前は、だいたい12月31日の夕方4時か5時ごろです。除夜の鐘が鳴るわずか8時間前に人類は文明を築きだしたということになります。人類はたったの5万年しかその歴史がないのに、なぜ、あんなに図体の大きい恐竜が1億年以上もの長い間地上で適応できたのかというと、地球の自転が速く、そのせいで重力が軽くなり、何十トンもある身体であってもそのひざで支えることができたからです。もし、今の重力であれば、間違いなくひざを痛めていたはずです。また爬虫類のように身体が尖っているのも強風に適応するには都合が良かったのです。しかし、人類は、1日が仮に20時間もないと、あっという間に夜になってしまい、道具を工夫する時間よりも、夜は獰猛な獣たちから身を守るために多くの労力を使わざる得ない状況で、飢えと寒さ、猛獣から身を守るために洞窟で身を潜める毎日であったろうことが容易に想像できます。
そして46億年という気の遠くなるような時間を経て、人はとうとう言葉を獲得しました。言葉は情報の蓄積と伝達を可能にしました。おかげで地球の時間でみると比較的に短期間で文明を築くことができたのです。しかし、長い動物時代の記憶は、人の意識に「怖れ」の感情を深く刻みつけました。また言葉を獲得すると同時に、人は感情を抑圧することができるようになったのです。言葉は情報の選択です。何かを選択することは同時に何かを抑圧(排除)することでもあるからです。つまり、言葉と抑圧は同じ意味なのです。
人は無意識に意味を選択し抑圧してしまいます。自分が何を抑圧しているのかさえ気がつかないことが抑圧なのですから。
つまり、感情を言葉で説明しにくいのは、感情が個別的な体験であることと、常に抑圧が働いて、自分自身でもよくわからないという、概念を得意とする言葉にとっては2重の負荷がかかるからということになるからでしょうか。
矢吹 三千男
矢吹 三千男氏 生来の虚弱体質で16歳の時に十二指腸潰瘍を患い、ヨガと占いにはまる。二十歳の時には身長が175センチで体重は50キロ。いつも複数の薬を持ち歩く。様々な健康法を実践するもほとんど効果なく、ようやく食養生で体質改善に成功したのは30代も半ばを過ぎていた。その時、生まれて初めて「健康」を実感する。製薬会社勤務などを経て、その後バッチフラワーに出会い、現在(株)プルナマインターナショナル代表。 著書『感情のレッスン』文芸社刊 |
こころと感情を癒す花のメッセージ「バッチフラワーレメディー」 イギリスで70年以上の伝統がある花の療法です。依存性や習慣性もなく、世界60数カ国で多くの人々に愛され続けています。 |