2012年11月、カンボジアの地雷被害者ヨート・イェトが初来日し、東京、宮崎、京都で講演をしました。彼女は、14歳の時に地雷事故に遭いました。当時のカンボジアは、内戦の真っ只中。田舎の、設備も何もない公立のヘルスセンターで、右脚を切断。その後、養子を引き取り育てながら、2度の結婚と離婚を経験し、2 0 0 9 年4 月からNPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事務所で、今も地雷の脅威に怯える人々を助けるために働いています。その彼女が伝えたメッセージは、次のようなものでした。
イェトからのメッセージ
宮崎公立大学で講演するイェト |
私は、世界平和を実現したいと考えています。カンボジアは、内戦はすでに終結しましたが、まだ平和になったとは言えません。それは、地雷がまだたくさん残されているからです。では、皆さんにお聞きしたいことがあります。日本は、平和な国だと思いますか ? 私は、日本はまだ平和な国だとは、思いません。それはなぜかというと、日本には自ら命を絶つ人が多く、また学校では、いじめの問題があると聞いているからです。カンボジアでは、そのような問題はありません。もしあったとしても、学校の先生や近所の人たち、家族が必ず助けます。私も死にたいと考えているときがありました。地雷を踏んで、脚を失ってしまったとき、私は本当にもう生きていたいとは思いませんでした。未来に希望が持てなかったのです。ただ、母や家族、医者が、『絶対に死んだらだめだ。少ししたら誰かがきっと助けてくれるから』と、言ってくれたので、なんとか生きていました。地雷事故に遭ってから5年後に、義足を受け取ることができました。義足を受け取り、再び歩けるようになったとき、私は本当に嬉しかったのです。テラ・ルネッサンスと出会い、働き始めてから、自分で仕事をして、家族を養うことができるようになったことは、さらに嬉しいことでした。私は、助けてくれる人がいたから、生き延びることができたのです。そして、今はとても幸せです。だからもし皆さんのまわりに、誰かつらい思いをしている人がいたら、死にたいと思っている人がいたら、助けてください。お互いに助け合えば、きっと困難は乗り越えることができると思います。もしつらい思いをしている人がいたら、誰かに相談してください。きっと助けてくれる人がいます。
イェトのメッセージを聞いて
このメッセージを聞き、宮崎の講演では、次のように話してくれた人がいました。『わたしは千葉県の出身ですが、震災の影響で、息子を連れて宮崎に移住してきました。それを裏切り者呼ばわりされ、ずっと笑顔になることができませんでした。でも今はようやく笑顔を少しずつ取り戻すことができてきました。それはなぜか、今お話を聞いて、やはり宮崎の人たちがとても温かく迎えてくれて、助けてくれたからだと分かりました。本当にありがとうございました。』私も住んだことがありますが、宮崎は、本当に人が温かくて、イェトも大好きになったようです。
また、京都での世界会議では、休憩時間にイェトのところにやってきた1人の若い女性がいました。「私は、17歳と20歳の時に2度自殺未遂をしました。16歳から精神科の病院に通って治療をしてきたし、医者も家族も『絶対に死んだらだめだ』と言ってくれました。それでも今も自分がいつ死ぬかも分からないし、逆に自殺するのが怖い自分もいます。」と話してくれました。イェトが、彼女に対して「確かに今は辛いかもしれないけれど、人生の中では必ず楽しいときもやってくるから、絶対に死んだらだめだよ。」と伝えると、彼女は震える手で、イェトの手を握りしめていました。
短い滞在期間でしたが、イェトは、物質的な豊かさとは逆に、日本にもたくさんの問題があることを感じたようです。「日本は平和な国だと思いますか ? 」という問いかけは、数十年前にマザー・テレサが、日本に初来日した時と似たものを感じたのかもしれません。マザーは、日本は「物質が豊かだが、心が貧しい」とその時に述べたそうです。イェトのメッセージの中に、本当に平和な世界を創るために、私自身が今すぐできることを教えてもらいました。
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 NPO法人テラ・ルネッサンス >> Premaラオスプロジェクト >> |