2014年4月、「三河みりん」でおなじみの、角谷文治郎商店さんを訪問しました。社長の角谷利夫さん、娘さんの文子さんに、蔵の中を案内していただきながらお話を伺いました。
醸造盛んな三河の地
角谷文治郎商店を訪ね、愛知県碧南市へ。この地域は200年以上の昔から、豊富な水と農作物、温暖な気候に恵まれ、みりんをはじめとする醸造業が盛んです。みりん造りは酒造りとの兼業が多いのですが、この地域では、みりん専門の蔵が多いのも特徴です。 昔ながらの天然醸造、本格仕込みのみりんは、もち米・米麹・焼酎から造られます。角谷文治郎商店では、佐賀県と北海道の、長い付き合いの生産者さんからもち米を仕入れ、精米から自社で行っています。精米から自社で、というのは珍しいこと。米麹は地元愛知県産のもの。また、焼酎も自社製造。これも珍しいことで、由来の確かな原料を安定して確保する、妥協のなさがうかがえます。
基本のお米と巨大な蒸し器
大量のお米が蒸し上がっています。迫力があります!
みりんの仕込みの時期は年二回、春と秋、梅・桜が咲く頃と、菊が咲く頃です。みりん造りはまず米を蒸すことから。1回に使用する米は3トン。これを1日3回、シーズン中は毎日。現場は、餅つきのときのような、お米のおいしそうな香りに包まれています。
蒸し上がったばかりのお米を試食させていただくと、硬めの食感。お米同士がくっつかないように、強くたっぷりの蒸気で蒸し上げます。お米の状態やその日の気温などによって蒸し上がりが変わってくるので、毎回チェックします。 蒸し上がったもち米を冷ました後、米麹と焼酎を合わせます。米麹は、麹室(こうじむろ)で2日かけて造られたものです。この工程では、焼酎の強い香りが充満。いるだけで酔ってしまいそう。以前、子ども連れで見学をされた方がいて、お子さんは「お酒のにおいだ~」と若干参り気味だったそうですが、お母さんが強者で「これがお母さんの好きな香りよ」とおっしゃっていたのだとか(笑)
醸造・熟成へ
ここで、仕込んで約3ヶ月のもろみを試食させていただきました。この段階ではデンプンもタンパク質も分解されていますが、旨みと甘さのバランスが取れておらず、味のまとまりがありません。
みりんのおいしさの元
タンクに入って3 日目の様子。何となくキラキラしています。
みりん造りと酒造りは合わせて行われることが多いのですが、要所ごとに違いがあります。たとえば、発酵が進みすぎないよう、酒造りでは気温を利用してコントロールします。そのため冬の寒い時期に仕込みを行う必要があります。一方のみりん造りでは、アルコール、つまり焼酎を利用します。みりん造りではタンパク質を分解するため、ある程度長い時間が必要なのです。
みりんのおいしさは、デンプンが分解されて生まれる甘みと、タンパク質が分解されて生まれる旨みからできています。これはつまり、お米まるごとのおいしさ。普通、お米を食べたときというのは、口のなかでは途中までしか分解されず、胃を経て腸にたどりついた段階で、完全に分解されます。ある意味、腸で味わえるそのおいしさが、みりんのおいしさです。
このお米のおいしさを味わえるのは、伝統的な製法で造られた本格仕込みのみりんだけです。「みりん」ではないみりん風調味料や、醸造アルコールと糖類を使い短期間で造られたみりん(本みりん)では、表面的な風味だけで、お米そのもののおいしさを出すことはできません。調理に使うにしても、照りやコク、その味わいはまったく別物です。
醸造・熟成が十分に進むと、しぼりへ。角谷文治郎商店では、今は珍しい「ふね」を使った昔ながらの手作業で、丸一日かけて行っています。この過程で、みりん粕が出てきます。三河みりんの粕は、しっとりとした甘み旨みの染みこむ味。みりん粕は、酒粕に比べて甘みがあり、これが活躍しているのが、名古屋名物である守口漬。また、百貨店で売られるような高級な漬け物にも、酒粕だけでなくみりん粕も使われるそうです。みりん粕を使うと、甘みが上品になり、粕がへばりつかず粕離れが良くなるのだとか。
「みりん」が仕上がると、瓶詰めし、目視による検品、ラベル貼り、そして各地へと送り出されます。角谷社長いわく、この製造工程は「最適なものを、妥協せず、効率よく、無駄なく」した結果。伝統を守りつつ、現代に適する、そのバランスが今の三河みりんを形作っているように感じました。
<らくなちゅらる通信編集部>
「三州みりん」「三州梅酒」
期醸造熟成の本格仕込み。みりん本来の甘みと旨み。