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鍼療室からの伝言

鍼灸師の西下先生による陰陽や自然食。二十四節気など古来の智恵のお話

圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー

西下 圭一 (にしした けいいち)

新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。

おたがいさまの心

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「あれ? 風邪ひいてる?」この季節になると、腰痛などの別の疾患で来られた患者さんの風邪に気づくことがあります。ついでに風邪の治療もしておくねと伝えると、「ここの帰りに内科に寄ろうか考えてたから助かる」と、喜ばれます。

ある程度のお付き合いのある患者さんになると、「風邪ひいたみたいだから、今日明日なるべく早いタイミングで診てもらえないか」と連絡があったり、「家族が健康診断で引っかかったので、一度相談に乗ってほしい」とお願いされたりする機会も出てきます。

一方で、「風邪をひいた」からと、「今日は病院に行ってくるから」とか「家でおとなしく寝ておくから」という理由でキャンセルする人もおられます。今日明日の急ぎの予定がないのであれば鍼治療を受けて休んでいれば経過が早いことを伝えても、その先の判断はご本人次第。同じように、ガンで初診に来られる人もいれば、ガンで入院治療するからと来なくなられる人もいる。人それぞれです。「うちにガンで来られてる人もいますよ」くらいは伝えても、無理に来てもらうものでもありません。

常に、求められることに対しては応えられる準備をしつつ、直接は求められてはいないことにも、ほんの少しだけ気遣いができたらとは心掛けています。

お節介過ぎない

人はつい求められていないことまで手出し口出ししたくなることもあります。自重する心掛けもしておかないと、押しつけてしまいかねません。ほんの一言、ちょっとした気遣いだけ見せれば、あとはご本人に委ねるのが良いでしょう。

なにか困ったことがあるとき、一人で悩んで考えてもわからない。どんなに悩んでも答えが出ないことは、どれだけ時間をかけて考えてもきっとわからない。そんなときに、ふと思い出してもらえるくらいの言葉がけができるのが理想です。恥ずかしがらず、怖がらず、手助けが必要なときには求めてもらえる。それもまた嬉しいものです。また言葉で伝えてもらわないことには、伝わりません。なににでも気づけるものでもありません。

「情けは人の為ならず」というように、安易に手を差し延べるのは相手のためにならないばかりではなく、手を差し延べている自分が心地いいという面もあります。ときとして押しつけが強すぎてしまうのはそのためです。「やってあげる」と言いながら、自分のほうが立場が上とばかりの態度になってしまうかもしれません。

最近では、自分の優位性を見せつけることを「マウントを取る」という言い方をします。「マウント」とは、動物同士が相手よりも自分の方が優位であることを見せつけるために馬乗りになる行為のこと。人と人との関係性でやってしまうのは心地のいいことではないでしょう。だからこそ、自重する心掛けも必要ですし、される側もそのことに気づいたときには離れて良いと思います。一緒にいても苦しいことばかりなのであれば、一緒にいる意味などないと割り切る勇気も必要でしょう。

人には上も下もなく、一人ひとりが素晴らしいものなのです。

個々が合わさる

禅の言葉に「明月上孤峰」とあります。高い山に明るい月が上がって美しい風景をつくりだすこと。山は山、月は月として存在感がありつつ、一つの景色に揃うことで、より一層美しい風景となることを意味します。山と月はまったく別のもので、それぞれが素晴らしい。それが合わさることで、また別の素晴らしい情景をつくりだすのです。

人と人とも同じことで、一人ひとりは素晴らしい。「おたがいさま」と尊重し合い、素晴らしい関係性を築いていきたいものですね。

- 鍼療室からの伝言 - 2023年12月発刊 Vol.195

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