子ども達の食事にPBWF(プラントベースホールフード:植物性の食材をなるべく精製加工することなく食べる)を選択することの利点を順に書いています。この食事法は大人はもちろん乳幼児から成長期、アスリートに至るまでさまざまなステージにおいて十分な栄養を充足させることができます。それでは普段以上に注意深く過ごす必要がある妊娠期と授乳期の食事についてはどうでしょうか。結論を先にお話すれば、PBWFの食事はこの時期のお母さんと赤ちゃんに必要な栄養を十分に摂ることができるばかりか多くの利点があります。
妊娠中及び授乳期の栄養
妊娠中は平常時に比べより多くのエネルギーを必要としますが、特別な食べ物が必要なわけではありません。いつもと同じ食事から摂れる栄養、すなわち、栄養豊富なPBWFの食事から必要なエネルギーとタンパク質、脂質とその他の重要な栄養素が摂取できます。PBWFは「精製加工しない」ということがポイントですから、玄米、全粒穀物で作ったパンや麺、豆類、濃い緑の野菜、芋、ナッツ、種子類を意識して多めに食べ、胎児の成長の各ステージに追加で必要となるエネルギーを補います。普段の生活より相当多い量を食べる必要があると感じるかもしれませんが、よく言われる「妊娠中は二人分食べる」ということではなく、実際は妊娠中期で340キロカロリー、妊娠後期で450キロカロリー、授乳中においても400〜500キロカロリーほど多く摂る必要があるだけです。ごはん茶碗一杯でだいたい250キロカロリーのエネルギーが摂れますが、玄米で食べると米を精製しない分、多くのタンパク質、ビタミン、脂質、ミネラル、食物繊維などの栄養も一緒に摂れます。このことからもPBWFで各時期において必要なエネルギーと栄養を追加するのは、それほど難しくないことがわかります。
妊娠中に食べる植物性の食事方法はAND(Academy of Nutrition and Dietetics:アメリカ栄養士会)、ACOG(American College of Obstetricians and Gynecologists:アメリカ産婦人科学会)でも推奨されています。
では、妊娠・授乳中に特に体に入れたくない有害物質についてはどうでしょうか。この時期は環境毒素、食品汚染、病原体、外来性ホルモンを避けるためにも最も重要な時期です。そしてこれらはすべて、動物性食品に多く含まれます。このことを裏付けるように、妊婦が食べてはいけない食品リストに挙がっている食品はすべて動物性食品です。具体的には、水銀汚染のリスクから、魚と水産物、出来合いの惣菜、乳製品、火が完全に通っていない肉と卵、寿司などです。
疫学調査からもプラントベースの食事が妊婦にとって安全だということがわかっています。『The Farm』というヴィーガンの集団が1970年代に2000人以上の妊婦についてのデータを集めた結果、彼女らは「帝王切開の割合が少ない」「出産後うつの割合が少ない」「子癇前症や糖尿病などの妊娠合併症の割合が低い」「母子の死亡の割合が低い」「消化が改善し便秘が減る」「つわりとこむら返りが減る」「体重の増加が少ない」「胃液の逆流が少ない」など健康な出産と産後を迎えるためのさまざまな利点があることがわかりました。
赤ちゃんは母親の胎内にいるときから味覚と食の好みの形成が始まるといわれています。妊娠中及び授乳中に母親が食べたものが赤ちゃんの食の好みを確立させます。この時期は子どもが生涯を健康に過ごす食習慣を獲得するために極めて大切な時期といえます。PBWFは産まれてくる赤ちゃんが健康な生涯を送るためにお母さんができる重要かつ賢い選択なのです。