私の専門であるシミ治療について順番に書いています。前回はレーザー照射で比較的早く良好な治療結果を得られるシミについて書きました。今月はレーザー照射などの刺激によってかえって症状が悪化する「肝斑」と「炎症後色素沈着」について書きます。
実はとても相談が多いシミ
一般にイメージする「シミ」とは違いますが、医学的に「シミ」とは「肝斑」を指します。聞き慣れない名称かもしれませんが、程度の差があるものの30~50代の女性に頻繁にみられる症状でありながら、明確に自覚されることが少ないシミです。主な原因はホルモンバランスの乱れとされています。年齢が若くても妊娠やピルの服用などによっても誘発され、紫外線、ストレス、摩擦が悪化要因となります。主に左右の頬骨の高い部分と額・鼻の下などに、もやもやと薄茶色の地図のような広がりが見られます。色が濃くわかりやすく見えていれば判断しやすいのですが身体の周期やストレスによって悪化と改善を繰り返す性質もあり、さらに肝斑に重なっていわゆる「シミ(日光黒子)」や後述する「炎症後色素沈着」、さらに「遅発性両側性太田母斑様色素斑(成人以降に出現するアザの一種)」が重なって存在する場合が多いので診断は複雑になります。
日常生活が原因になるシミ
簡単にレーザーで治療できないもう一つのシミが「炎症後色素沈着」です。膝や肘をつく日常的な癖、スキンケア時に皮膚を強くこする、身体を洗うときに硬いタオルでゴシゴシ洗う、下着など衣類の擦れや、湿疹・虫刺され、火傷やレーザーの後に茶色い色素沈着が残った状態を「炎症後色素沈着」といいます。炎症や刺激をきっかけにメラノサイト(皮膚表皮層のメラニンを作り出す細胞)が刺激を受けメラニンが過剰産生されます。メラニンは適量であれば新陳代謝により一定期間で肌の外に排出されますが、過剰であったり、新陳代謝の働きが遅いと長い間皮内に蓄積します。また摩擦や刺激が原因となっている場合は原因を取り除かないと症状が改善することは難しいです。
「肝斑」と「炎症後色素沈着」はレーザー照射などで刺激を与えるとかえって色素が増強し悪化しますので刺激を与えないように扱うことが重要です。一般的なシミや黒子と重なって「肝斑」がある患者様が、「シミ」を取ってほしいと来院された場合などは特に綿密なカウンセリングと、皮膚の状態やライフスタイル、通院可能な頻度などを考慮した治療方針の提案が必須です。
当院での具体的な治療法として、内服、外用、高濃度ビタミンC点滴などをお勧めし、併設のメディカルエステでは美白成分の経皮導入や新陳代謝を促す施術をおこないます。エステでの施術はもちろん重要ですが、同じくらい大切なのはエステ中に施術担当者から診察でお話した内容を時間をかけて確認し、摩擦の有無など日々の皮膚の取り扱いの指導を受けながらリラックスした状態で治療内容やスキンケアについて質問をしていただける機会を持てることです。レーザートリートメントをおこなう場合は、このような治療をおこなったうえで照射できるタイミングを見計うのですが、この見極めが容易になるのもメディカルエステとの連携があればこその場合が多くあります。さらに食事とお肌の治療を関連付け、プラントベースホールフード(PBWF:植物性の食材をなるべく精製加工することなく食べる)の食事により、身体のアルカリ化に努め、炎症をおこなさい身体をつくる指導もしています。
前号のレーザー照射が有効な種類のシミでは悪性(皮膚がん)を見逃さない診断が重要と書きました。今月お伝えした2種類のシミは見極めと患者様に納得していただきながら一緒に治療を進めることがとても大切です。