2009年9月10日、カンボジアの首都プノンペンで、イギリスのNGOカンボジア・トラストが運営するカンボジア義肢装具士養成学校の卒業式が開かれました。そこで、テラ・ルネッサンスが奨学金を提供してきたカンボジア人女性ヒム・カンニャさんが、見事最終試験に合格し、卒業しました。
義肢装具士とは、義肢(義足、義手)と装具(補助具など)を障害者のために製作し、適合する専門家のことです。カンボジアでは地雷や不発弾により障害を負った人の数が、1979年以降、2009年5月までに記録されているだけで43,926人に上ると言われており、また長い内戦の影響で医療環境が整備されず、ポリオ(小児マヒ)患者も約50,000人いるといわれます。最近では、交通事故によって障害を負う人も急激に増加していることもあり、義肢装具の必要性が非常に高くなっているのです。義肢装具は2~3年ごとに交換しなければならず、特に子どもは体の成長が早いので、6か月に1度、新しくします。しかし、1975年から始まった悪名高きポル・ポト政権時代に、ほとんどの知識人や技術者が虐殺されたため、彼らをサポートする義肢装具士は、圧倒的に少ないのが現状です。
今回卒業したカンニャさんは、テラ・ルネッサンスが奨学金を提供した2人目の奨学生になります。カンボジアでは、社会的な慣習の影響で高等教育を受けた人が少なかった上に、義肢装具士のような専門職は男性の仕事であるという考えが一般的です。それ故に、障害を負っている人には、女性も当然多く存在しているにも関わらず、女性の義肢装具士が少ないのが現状です。カンボジアの農村では、伝統的に若い女性の中には男性に肌を見せることを恥ずかしいと考えている人も多く、義足を無料で受け取ることができるにも関わらず、リハビリテーションセンターへ行くことをためらう人もいます。そこで、「カンボジア人の女性義肢装具士を育成し、カンボジアにおける女性の地雷生存者やポリオ患者をはじめとした障害者が、長期に渡って安心して義肢装具を提供してもらえる環境を整備する」ことを目的に、テラ・ルネッサンスでは、カンボジア義肢装具士養成学校に通うカンボジア人女性へ奨学金を提供してきました。義肢装具士1人が1年間で製造できる義肢装具は250~270本と言われており、現地の義肢装具士を育成することにより、一生障害とともに生きていく人々の生活を、継続してサポートすることができるのです。
テラ・ルネッサンスでは、2006年10月からヒム・カンニャさんに奨学金を提供してきました。『この3年間に義肢装具を製作する実技の勉強だけでなく、理学療法、薬学、解剖学、数学、生体力学に加えてコミュニケーションスキルも含めた心理学などの理論も学びます。カンボジア人以外にも、アフガニスタン、東ティモール、ラオス、スリランカなどの近隣諸国からの留学生も受け入れているため、授業は全て英語で行われ、語学の勉強も本当に毎日大変でした』とカンニャさんは話してくれました。それでも『自分の作った義足を患者さんに適合できたときの喜びは、とても大きいものだった』そうです。私は、毎年2回、スタディツアーで現地を訪問する度にカンニャさんに会っていましたが、その成長ぶりに、いつも驚かされていました。最初に彼女に会ったのは、2007年3月のスタディツアー。義肢装具士養成学校を訪問し、とても小さくて恥ずかしがり屋のカンニャさんに対面しました。話を聞いても、小さな声でうつむき加減に話をしてくれる…、いかにもカンボジアの女の子らしいシャイな印象を受けたのを、今でも覚えています。それが2009年の9月の卒業式の後にインタビューをしたときには、見違えるように自信を持って、自分の考えをハキハキと英語で答えてくれ、その姿に頼もしさを感じました。そしてカンニャさんを奨学生としてサポートできたことに、喜びを覚えました。
地雷生存者をはじめとした義足や義手を必要としている人々を助けたいという思いから、義肢装具士を目指したカンニャさん。2009年12月からカンボジア・トラストの運営するシハヌーク・ヴィルにあるリハビリテーションセンターで、義肢装具士として働き始めています。「カンボジアだけでなく世界中のすべての障害者に義肢装具をサポートしたい」という彼女の大きな志を、これからは一歩一歩実現していってほしいと思います。
江角泰(えずみ たい)
江角泰(えずみ たい)氏 NPO法人テラ・ルネッサンスのカンボジア事業担当者。 大学時代に、NGO地雷ゼロ宮崎のメンバーとして参加した「テラ・ルネッサンスのカンボジア・スタディツアー」が、テラルネッサンスとの出会い。 現在は、カンボジアにおける地雷問題に取り組む他、弊社が進めるラオス支援活動も担当中。 |