世界の油脂の歴史を調べてみました。それによると人類の食べる歴史は狩猟から始まります。油脂の起源として、その脂身を食していたのが最初だそうです。
脂は燃えると炎が出ることを知り、それが明かり用にも使われ、明かりのための脂の代用として植物性の油が使われ、食用に広がり、現在に至るそうです。日本も同じような感じで、始めは動物の脂身から……と、わかりました。
オリーブオイルの歴史は6千年とも8千年ともいわれ、旧約聖書にも度々登場するなど、古くから人と関わっているオイルということがわかります。灯火として宗教儀式に使用されていたこともあり、医療用として塗布や内服に使われることで普及していきます。日本における米のように、ローマ帝国時代はオリーブオイルを兵士への報酬としていたそうで、その価値の高さがうかがえます。
食用としての油脂について、日本はどのような歴史を辿っていったのか?
中国や韓国の料理に影響を受けているのは想像できますが、料理だけを見ると中国料理の油たっぷりの料理に影響されなかったのは不思議です。調べると日本には動物の肉食を禁止した時代があり、それから油(脂)使いの料理は衰退したそうです。その流れで日本独自の料理、米に合う魚を使った馴れ寿司や精進料理、そして、家庭料理に至っても煮物が中心で油料理はほとんど発展しませんでした。
このような背景から日本人には油脂で調理する歴史が浅く、食文化のなかになく、どのように料理をするか不明な食材だったともいえると思います。
野菜の旨味を引き出すオイル
私も以前はこのようなことを想像もしませんでした。でも、オリーブオイルを使うようになり、野菜のみを調理するのに、オイルと塩だけで十分な旨みが出るのを知り、加熱調理するとき、オイルを入れるのと入れないのとでは、全く味わいが違うことに気がつきました。
日本には濃厚な旨みのある出汁や醤油、味噌の発酵調味料があり、簡単に満足度の高い料理を可能にします。イタリア料理では、それらがない分、塩とオイルを素材と合わせることにより、舌で「おいしい」を感じるものにします。アミノ酸の強い旨みに慣れた日本人には特殊な旨みといえると私は思います。
『オリーブオイル× 塩× 素材』が加熱されることによる旨みを醸しだします。この方程式を簡単に試してみる方法があります。単一の野菜をオイルと塩で、低温でじっくり炒めるだけです。加熱で余分な水分は飛び、方程式の結果、掛け算の答えが出ます。火を通す前の味とは全く別物の味が掛け算の答え。これが野菜の旨みを引き出した「おいしい」になります。その味わいは素材の味が一味も二味も広がって濃厚です。最もたんぱくな野菜、ズッキーニやジャガイモ、白菜、キャベツなどどれか一つの野菜で試してみるとわかります。オリーブオイルは油脂として舌に「おいしい」を最も強く、かつ、素材の持ち風味を邪魔せず縁の下の力持ちとして働きます。このおいしさは今までの和食にはないものです。
私はイタリアで料理修業をする以前、日本でたくさんのオリーブオイルを目にし、味わっていましたが、そのじつに奇妙な味のオイルをどうして使わなければならないか、全く理解できませんでした。フライパンなどに入れ熱すると何とも言えない不快感。食べてみても油っぽく、口に入れても「おいしい」だなんて思うことはできませんでした。しかし、オリーブオイルと共に暮らして20年。オリーブオイルがイタリアや地中海沿岸で長い間使われ、独自の食文化に必要なオイルだということが理解できます。
油脂が醸し出す料理。本当に素晴らしい味わい。ほっとする味わいです。質のいいものを選びおいしい料理を作っていただきたいです。
アサクラ 代表
朝倉 玲子
(あさくら れいこ)
一般企業、有機農業に携わった後、イタリアに滞在し有機農家民宿やミシュラン三ツ星レストランにて料理修業。オリーブオイル鑑定技能講座で学び、オリーブオイルの素晴らしさに開眼。本物のシングルエステートを探し、エキストラバージン・オルチョサンニータと出会い、故郷会津若松に戻り輸入開始。オリーブオイルの良さと使い方を伝えている。
http://www.orcio.jp