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ながれるようにととのえる

身体の内なる声を味方につけて、生きる力をととのえる内科医、鍼灸をおこなう漢方医のお話

やくも診療所 院長・医師

石井恵美 (いしいえみ)

眼科医を経て内科医、鍼灸をおこなう漢方専門医。漢方や鍼灸、生活の工夫や養生で、生来持っている生きる力をととのえ、身体との内なる対話から心地よさを感じられる診療と診療所を都会のオアシスにすることを目指す。
やくも診療所/東京都港区南麻布4-13-7 4階

心地よさを探って生きる

投稿日:

「自分に厳しくが大事だぞ」と話すお父さんと男の子が横を通り過ぎて行った。その言葉を聞いて、思わずはっとした。「だらけたり、なまけたりしないように」という意味なのかもしれないが、「自分に厳しく」は本当に大切なことを伝えているのだろうか。相手を思いやって尊重するために、自分に厳しくして我慢することを、社会の多くの場面で求められているように感じるからだ。なにか大切なものを後回しにしてしまっていないだろうか。

身体の声に耳を傾けていると、自分自身に一番やさしくありたいと思うようになってきている。心地よいと思えることを、常に大切にしていきたい。これは、だらけたり、なまけたりすることを勧めているのではない。ときにはデクノボウのようになにもしない時間を持つことも必要だし、思いっきり身体を動かす時間を持つことも必要だ。

テレワークが浸透して便利になった反面、通勤やなにげないおしゃべり、たわいもない行動がなくなったからか、身体に異変を感じている人が増えている。私の患者さんに頸動脈の動脈硬化がすすんでしまった人がいるのだが、テレワークが多くなり、日常の活動量がかなり減ってしまっていたようだ。検査結果をふまえて、身体を錆びつかせないためになにができるのかを患者さんに考えてもらった。すると、「太陽の日差しを浴びて、毎日30分の散歩をしよう」と言うので、私も取り入れてみようと思い、毎日ではないが歩くことを増やしてみた。

歩き始めてみると、身体が喜ぶ感覚がある。身体のためにこうしなくちゃとやるのもいいが、自分が心地よいと思うことのほうが大切だ。だから、歩くことは無理のない程度で継続している。身体の声を聞いていると、気持ちいいのがなによりなんだと感じる。だれかに言われて行動を変えるよりも、できれば自分の心地良さを探って生きていたい。

私は鍼灸も治療に取り入れているのだが、春の寒暖が繰り返される三寒四温の時期は、身体のあちこちがガチガチに硬くなってめぐりが滞る人が増えてくる。そういう私も油断すると、身体がカチコチになりやすい。この春は足をしっかり緩ませることを意識してみている。足の指と足の指の関節、足首の関節をそれぞれ左右に5回程度ぐるぐるぐる回す。すると、なんだか身体がほわーっと温かくなるので、お風呂の中でも足の緩ませアプローチをしている。緊張すると身体は硬くなってしまうし、身体に痛みなどがあってどこかをかばった動きをしていると、その分身体に歪みがおきて、硬直するところができやすい。実際に患者さんを診ていると、まるで凝りのコルセットのようなものを全身に纏っている状態の人も多い。そんな凝りを観察していて感じるのは、凝りがひどくなればなるほど、凝っているという自覚がなくなっていることだ。ひどい凝りは、まずそこが凝っていたんだと自覚できるところまで整えていくことから始まる。身体に触れて妙にくすぐったいと感じるのも緩むことが自然にできていないサインに感じる。凝りひとつでも丁寧な観察をしていると、身体が出してくれているサインは緻密だなぁとつくづく感じるのだ。「ありがとう、おしえてくれて」そんな気持ちで生きていたいと思う。

ときどき身体が硬くなるので、どうにかして緩められないかと考えている。鹿児島の精神科医の神田橋條治先生が、「がんばる」だと力が入ってしまうので、力の入らない「がんばる」を発声できるといいと本に書いていたのを読んだことがある。私も患者さんに力の入らない「がんばる」を伝えたくていろいろと試していて、がんばる必要のある場面では「かんぱる」という、力の入らない言葉を自分に向けるようにしている。ちょっとクスッとしてしまう「かんぱる」は、自分が力まないためのおまじないにもなっている。

- ながれるようにととのえる - 2022年6月発刊 vol.177

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