法の舞台
前回、私が弁護士として、障害者の権利に関する法律問題に多く取り組んでいることをご紹介しました。今回は、そうしたなかで、一般の方にはあまり知られていないと思われる類型の問題をご紹介したいと思います。そうすることで、法律が機能する場、すなわち、「法の舞台」を知っていただけると嬉しいな、と思っています。
重度障害者の在宅生活
私たちは誰でも、障害の有無にかかわらず、本来、自分の望む場所で、自分の望むように生きる権利を有します。しかし、重度の身体障害を有する方、例えば、随意運動がほとんどできなくなる筋萎縮性側索硬化症(ALS)や、運動機能が低下する筋ジストロフィーのような難病の方の場合、生きていくためにほとんど全面的に介助が必要となります。多くの場合、障害者本人が介護事業所と契約するなどして、職業ヘルパーを派遣してもらわなければなりません。そうすると、その費用を誰が負担するか、という大きな問題に直面します。単純に考えると、障害者本人がサービスの提供を受ける以上、本人が支払うべきだという気もします。しかし、多くの場合、障害者本人は労働することが困難であるため、収入がありません。また、そもそも、たまたま障害をもって生まれたがために、ヘルパーの費用を生涯にわたって自己負担しなければならないというのも腑に落ちません。これについて、法律はどのような立場をとるのでしょうか。
重度訪問介護
「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」という法律が存在します。一般に、「障害者総合支援法」と略称される法律です。この法律によれば、先述のような重度の障害者に対する介護は、「重度訪問介護」という類型のサービスにあたり、本人の申請によって、市町村が費用を負担する仕組みとなっています。具体的には、市町村が「1か月あたり何時間」という形で費用の負担を決定します。
なるほど、それならば、重度の障害者も安心して自宅で生活できるはず、と思われるかもしれませんが、実はこの制度には大きな問題があるのです。それは、自治体が、本来障害者の介護に必要な時間数を支給するとは限らないことです。例えば、先述のようなALSや筋ジストロフィーなどの難病の方の場合、食事、体位交換、排泄といった日常のあらゆる営為に介添えが必要とります。したがって、最低でも1日24時間の介護が必要なのです。1カ月を31日とすると、1カ月に必要な時間数は744時間となります。ところが、自治体では、そういった場合でも1カ月に300時間程度など、必要な時間数を大きく下回る決定をおこなう場合が多くみられるのです。
では、自治体が費用を負担してくれない残りの時間については、どうすれば良いのでしょう。裕福な方であれば、サービス利用料を自己負担するかもしれません。あるいは、介護をおこなうために、家族や親族が仕事を辞めるかもしれません。介護事業所が対価を受け取らず、すなわち、無償でヘルパーを派遣するケースもしばしばみられます。
このように、特定の者に経済的な負担を強いるのは、いかにも不公平です。冒頭で述べたように、誰もが自分の望む場所で生活する権利を有することからすれば、それを実現するために、障害者が生活するための費用を負担すべきなのは公的機関です。
弁護士として
そこで、自治体からの支給量が不足するような場合、私は障害者の代理人となって、十分な支給量を求めて自治体と交渉をおこなうことがあります。
具体的な交渉の進め方や、それが成功した事例などについては、次回詳しくご紹介したいと思います。