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子どもと情緒

【Vol.31】(新連載)プロローグ 

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  戦後から今日までの65年間、私達は豊かな生活を手に入れるために国を挙げて馬車馬のように働いてきた。その結果、物質面では世界一の経済大国になったが、昭和28年、テレビジョンが普及し始めたとき、大宅荘一という社会評論家が「国民総白痴になる」と喝破したように、精神面の豊かさを育てることが出来ないまま今日に至っている。大人達は目の前にぶら下げられた物質文明によって次々と生み出される豊かさのシンボルとしてのものを手に入れることに夢中になり、子どもに対して親から子への人間として伝承すべき事柄を直接伝えることを放棄してきた。「士農工商」と言われる言葉の本来の意味は、「士」とは志を持って公に殉じ国を治める人を指し、江戸時代での武士階級が一番えらいとの意味ではない。この言葉は、社会が円滑に機能するための役割の重要性を重み付けたのである。
しかし、今日ではこの重み付けが完全に逆転し、「商工農士」となり、社会は物欲が全ての商業資本主義が支配するようになってしまった。「士」は死滅し、「公」という言葉は死語になりつつある。「生物経済学事始」でも述べておいたように、私達は、起死回生、乾坤一擲でパラダイム・チェンジに取組まなければならない時代に入った。

  このような時代で、一番被害を蒙るのは子どもたちである。何も知らないで生れ落ち、幼い時から無明の闇を彷徨わなければならない。私の世代のように戦前から今日までを生きてきた人間は、今日のパラダイム・チェンジに率先して取り組み、次世代の子どもたちに対して光明への道を開く役割があると思っている。

  その一つとして、ささやかな試みではあるが、私の子育てを通して知恵として身に付けたものを「子どもと情緒」というテーマでこれまで折に触れてスケッチしておいたものに手を加えてまとめてみようと考えている。

  さて、今から二十数年前、当時小学校5年生だった次女の明子(さやこ)が、書斎に入ってきて、書見をしていた私の肩に肘を乗せながら質問してきた。「お父さん、明子はどうしてお父さんの子どもに生まれてくる運命にあったの。」「どうしてそんな質問をするの。」と尋ねたところ、「友達がいわはってん。『さやちゃんは幸せね。お母さんがセーターを編んでくれはるし、お父さんはオモチャを作ってくれはるし。』」という返事が返ってきた。

  その折、小学校5年生で「運命」という言葉を的確に使う知恵に驚いたことを鮮明に思い出すが、次女が自分の父親としての私の存在を確りと受け止めていることが感じられ何ともいえない至福を感じたものだった。聞けば、その友達は、親が離婚して母親が再婚し新しい父親と暮らしているが、実の父親から貰って大切にしていたものをいつまでも持っているのは悪いと思って、次女に貰って欲しいと頼むような心優しい子どもだったようだ。

  一昨年のこと、長女の息子で初孫の小学校3年生の舜介がはにかみながら「爺の孫に生まれて運が良かった。」と言った。長女は離婚して子どもを連れて戻ってきたのであるが、孫は幼心に不安で一杯だったのだろう。それが徐々に心を開いて、今いる場を安寧の場と感じてくれたのだろうが、何ともいじらしい想いでいっぱいになった。

  これまで述べた例でも解るように、私たち大人から見て「未熟な」と思っている子どもたちに見事な人格の形成、自我が形成されているのである。

  ここで「自我」という言葉の定義を明確にしておく必要があるだろう。この言葉はラテン語のエゴに当るが、口語的な使われ方では、「うぬぼれ」、「自負」の意味で、どちらかというと良い意味で使われないことが多いからである。「自我」の定義を広辞苑から引用すると、以下のような難しい説明がなされている。
[自我](self:英語、ego:ラテン語)哲学では、「諸体験または諸作用の主体的統一の契機」心理学では、「精神分析で、意識的または無意識的で本能的な力を、外界の現実や良心の統制に従わせる個性の一側面」。

  何とも無味乾燥な言葉の羅列であるが、私が冒頭に述べた次女や孫の話の背景となるものを理解できれば解るであろう。すなわち、「自分を他人と比較してどのような存在であるかを認識し、それを的確に表現出来る能力を身に付けること」と定義しておこう。

  この自我が子どもの中でいつ頃形成されるのか不明であるが、昔から言われている「三つ子の魂百まで」のことわざを自分の子育てに当てはめてみれば、三歳頃までにはほぼ出来上がっているのではないかと感じられることが多々あったように思える。

  最近になって、脳科学の分野で、脳の発達やシナプス形成にDNAが関与していることが少しずつ解って来たようであるが、私たちはこれまで積み上げてきた経験に基づいて情緒豊かな子どもをどのように育てて行くかを考えなければならない。

  「子どもと情緒」というテーマで、私の子育ての経験から得たものをまとめてみようと考えている。私の話をたたき台にして頂いて、危機的状況にある子どもの世界を共に考えて頂ければ幸いである。

野村隆哉

野村隆哉(のむらたかや)氏
元京都大学木質科学研究所教官。退官後も木材の研究を続け、現在は(株)野村隆哉研究所所長。燻煙熱処理技術による木質系素材の寸法安定化を研究。また、“子どもに親父の情緒を伝える”という理念のもと、「木」本来の性質を生かしたおもちゃ作りをし、「オータン」ブランドを立ち上げる。木工クラフト作家としても高い評価を受けている。
オータンの「木の動物たち」 >>

- 子どもと情緒 - 2010年3月発刊 Vol.31

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