人類は狩猟採取から農耕に生活スタイルを変え、農耕が進化したことで、いまでは美味しい野菜や果物をいつでも食べることができます。前号では、農耕が進化したのは、人類が歩んできた約1万年の「植物の突然変異と人の努力の結果」であることを、具体例を通して紹介しました。今号はその続編です。
●毒を持たない種子
酒のつまみやチョコレートにもよく合い、地球上で最も広まったナッツ類ともいわれているアーモンド。しかし、野生の原種アーモンドの種子には、苦くて毒性のある青酸化合物が含まれていて、人が食べると数十個で死に至る危険があります。「実を動物に食べさせて、種子は動物の排泄と共に地面に落ち、新たな繁殖地を得る」という植物の移動戦略のために、種子は動物にかじられ、消化されることがないように毒性をもっているのです。ところが、たまたま毒性を持たない突然変位種を人が見つけて育て、死のリスクを冒さずにアーモンドが食べられるようになりました。
野生のスイカやジャガイモ、ナス、キャベツも元々は苦かったり、毒があったりしました。多くの果物では、種子を包む外側の甘い果肉部分で、動物を引き付けます。そして、種子は硬い殻に覆われ、また味が良くない ことで、身を守っていました。
●種子のない植物
原種のバナナは種子だらけで可食部がほとんどなく、味は甘くなく、美味しくはなかったそうです。植物にとって種子がない突然変異種は致命的ですが、人には好都合で、現在の種子なしバナナの栽培が広がりました。ちなみに私たちがバナナを栽培するときには、親株の隣に生えている子株を、地下茎と根っこごと切り取って移植する方法(株分け)で栽培するので、種子はなくても問題ないのです。最近、出回るようになった種子なしのオレンジやブドウ、スイカは、種子なしバナナをヒントに生まれたそうです。
ここまでは主として遺伝情報の突然変異の観点で事例紹介してきました。来月は人類の努力や発見による進化に焦点を当ててご紹介します。
命がけじゃなく、食べられるようになったアーモンド