私は現在、京都弁護士会の行政法に関する委員会の委員長であり、日本弁護士連合会の行政問題対応センターの委員も務めています。また、これまで、少なくない数の行政事件に代理人などの立場で携わってきました。
また、もう数年前のことになりますが、このコラムで、「審査請求」という行政不服審査制度についてご紹介したことがありました。
そして、この度、私は、弁護士の先輩である濱和哲弁護士と水野泰孝弁護士と一緒に、『行政不服審査の対応にもう困らない 自治体の審理手続に役立つ実務Q&A』(第一法規)を上梓しましたので、改めて行政不服審査制度について簡単にご紹介するとともに、この書籍についても少しご紹介させていただきたいと思います。
審査請求制度
日本の行政不服審査制度のうち、中核的なものが審査請求です。
簡単に説明すると、審査請求とは、行政機関内部において、行政処分の適法性や妥当性を事後的に検証・判断する制度であり、違法又は不当な行政処分を受けた方の権利の救済を図るという目的と、行政の適正な運営の確保を図るという目的を有しています。
行政処分は無数にありますが、例えば、運転免許の停止処分、児童扶養手当の受給資格を喪失させる処分、地方公務員に対する懲戒処分、各種の営業停止処分などがイメージしやすいかと思います。
審査請求の仕組み
審査請求をする場合、行政処分を受けたことを知った後3か月以内に審査請求書を提出します。
審査請求をした人を「審査請求人」、その対象となる行政処分をした行政機関を「処分庁」、審査請求の審査をする行政機関を「審査庁」といいます。
手続の流れとしては、審査請求を受けた審査庁が、「審理員」を指名します。次に、審理員はまず、処分庁に対して、審査請求書に対する「弁明書」の提出を求めます。そして、処分庁から弁明書が提出された後、これを審査請求人に送付し、これに対する「反論書」を提出する機会を与えます。
こうして書面上のやりとりがなされた後、審査請求人の申し出があった場合には、審査請求人、処分庁の職員、審理員などの関係者が集まって、口頭意見陳述という手続をおこないます。審査請求人は、その機会に、自分の意見を述べるとともに、処分庁の職員に対して質問をすることもできます。
その後、審理員は、それまでの審理を踏まえて、審理員意見書を作成し、審査庁に提出します。
そして、審理員意見書の提出を受けた審査庁は、「行政不服審査会」という専門機関に諮問し、その答申も踏まえて、最終的な裁決をおこないます。
制度運用の難しさ
審査請求は、違法又は不当な行政処分を受けた方の権利救済と、行政の適正な運営確保のための重要な制度ですが、必ずしもうまく運用されているとはいえません。例えば、審査請求は、一般に、裁判よりも簡易迅速な手続であるといわれていますが、実際にはかなり時間がかかる事案も少なくありません。また、審理員の質の問題も、しばしば指摘されています。
冒頭でご紹介した書籍では、こうした実情を踏まえて、自治体の職員の方や審理員などが抱くと思われる数々の疑問を想定し、それらに回答する形式で、充実した審査請求制度の運用のあり方を提案しています。
行政機関は、裁判所とは異なり、法的な紛争解決を専門的に扱う機関ではないため、審査請求制度を運用するのは簡単ではないかもしれませんが、市民の権利救済と行政の適正な運営の確保のために、制度の運用が充実したものになることを願っています。