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鍼療室からの伝言

鍼灸師の西下先生による陰陽や自然食。二十四節気など古来の智恵のお話

圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー

西下 圭一 (にしした けいいち)

新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。

全体から滲み出る、美しさ

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スマホの普及で、私の診断法は変わりつつあります。スポーツ障害で悩む中高生に付き添って来られた親御さんにお願いすれば、大抵直近の試合を動画で見せてもらえる。なぜ痛めたのか、なぜ治らないのか、動画で原因を探りやすくなってきたのです。競技、種目やポジション、レベル(市民大会止まりか、府県大会の常連かなど)、練習内容など、以前は細かく尋ねていたことが、動画を見ればわかります。気になる動きがあれば、前後の数秒間を繰り返し再生できますし、スロー再生(コマ送り)もできて、足音まで聞こえる。便利な世の中になったものです。

美しいか、機能的か

動きをとことん追求すると、美しさに結びつきます。美しい動作は、伸びやかでいてスピード・素早さがあり、力強さが感じられる。かつリラックスしていて本人は楽であり、ケガをしにくい。水泳や陸上などの記録を争う競技はもちろん、野球・サッカー・バレーボール・バスケットボールなどの球技でも同じで、〝上手な人〟と〝わたし〟を比較すると、余計なところに力が入っていたり、無駄な動きがあったり、肝心なところに力が入ってなかったりと、違いがわかるはず。逆に、こうした要素を満たしている動きには、全体から美しさが滲み出ているのです。

一般の人の歩くさまも同じです。姿勢や歩幅は一定か、一つ一つの動作が美しいか。どこかを痛めていれば歩様が乱れて速度が遅くなるし、歩様が乱れると膝や腰などを痛めやすい。茶道をする友人に聞いてみたところ、上級者の所作は美しいものだと似たような言葉が返ってきました。いわく、一つ一つの動きには意味があって機能的であり、無駄なく流れるように一連の動作をこなしていて、本人は楽である。だから美しく見えるのだと。

美しい動きと機能的な動きは両立するものです。上手になりたい、速くなりたいのであれば、美しさを目指せば良いのかもしれません。

滲み出てくるもの

美しさの別の一面として、見た目だけでなく内面、心の状態も関係します。
十数年前、恩師が駅伝選手を指導する場に立ち会ったことがありました。故障がなかなか治らず、走りが崩れてしまった選手に、恩師は「謙虚に走りなさい」とだけ伝えられました。選手はしばらく考えた後に「わかりました」と一言。見違えるようにキレのある美しいフォームを取り戻していったことを覚えています。「俺が俺が」と我が出すぎると、動きが崩れることもある。その本質に本人が気づけば細かい指導は必要ないものかもしれません。

全体から滲み出るのが美しさであると考えれば、心のあり方が表れるのも当然といえますし、日常の生活習慣が美しさを損うこともあります。

診断で「しばらくパンは禁止ね」と伝えて、「ケガと関係あるの?」とばかりにキョトンとされることもしばしば。ここでも動きやケガの性状から、根底にある原因を探っています。部活動を終えて空腹で帰宅早々に菓子パンを食べ、夕食が食べられない。これでは生活リズムが乱れ体調を崩すのは明らかです。朝食も、時間短縮や効率を口実に、名ばかりの栄養バランスを謳ったお菓子を口にする選手がいますが、同じこと。効率どころか、ゴミは増え栄養は偏り、まったく美しくない。味噌汁一杯のほうがよほど必要な栄養を補えて効率的で美しいでしょう。パンやお菓子、甘いものが過ぎると、自身への甘さにつながります。厳しいトレーニングに耐えきれなくなり、ここ一番の踏ん張りどきに脆くなりかねません。

食を整え、体を引き締めることで、心も磨かれます。少しの辛抱をくぐりぬければ、その先は意外と楽なもの。そうした体験を積み重ねることで、余計な力の入っていない、美しさの滲み出るところへと導かれることでしょう。

- 鍼療室からの伝言 - 2019年6月発刊 vol.141

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