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鍼療室からの伝言

鍼灸師の西下先生による陰陽や自然食。二十四節気など古来の智恵のお話

圭鍼灸院 院長 鍼灸師
マクロビオティック・カウンセラー

西下 圭一 (にしした けいいち)

新生児から高齢者まで、整形外科から内科まで。年齢や症状を問わないオールラウンドな治療スタイルは「駆け込み寺」と称され医療関係者やセラピストも多数来院。自身も生涯現役を目指すアスリートで動作解析・運動指導に定評がありプロ選手やトップアスリートに支持されている。

熱感と温感と

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「この前お邪魔した後から、風呂が苦痛ですねん」。こんな訴えが患者さんからありました。よく聞いてみると、きちんと入浴してしっかりと体を温めるようにとこちらが伝えたことから、ご家族がお風呂の温度を高く設定するようになり、10分も浸かっていようものなら我慢できなくなってくるのだとか。心地よく温まるはずの入浴時間が、これではストレスになってしまいます。

熱は味方

「ヒートショックプロテイン(HSP)」といって、私たちの体には、熱刺激が加わることによって傷んだ細胞を修復する働きをもつタンパク質が存在することがわかっています。このHSPは、体温プラス3~4℃のお風呂に15分以上入ることで増えるといわれているので、お風呂の温度は39~40℃で十分ということになります。先ほどの患者さんやご家族は、どうやら熱ければ熱いほど良いと解釈してしまったようなのです。体によいことをするのにそれがストレスになってしまうのでは意味がありません。心地いいと思えることを優先してくださいということで理解してもらいました。
 
似たような誤解に「温感湿布」があります。「患部の炎症はもう鎮まっているから、しっかりと温めることで治りが早くなりますよ」とお伝えしたはずが、翌週に診てもまったく好転していない。不思議に思って尋ねてみると、「温めるように言われたので薬局で温湿布を買って毎日貼っていた」との答え。それは温湿布ではなく、温感湿布。トウガラシエキスなどの成分により温かく感じるようにできているだけで、温めているのではなくてむしろ冷やしていることが多いのです。お手当てでは物理的に温めてほしいのですが、伝えることの難しさを感じます。
 
古代ギリシャの医師であったヒポクラテスの言葉に、「患者に発熱するチャンスを与えよ。そうすればどんな病気でも治してみせる」というものがあります。体が発熱するのは必要があるからで、その発熱を促してあげることで治癒に向かうということを、この言葉は教えてくれています。また、風邪やインフルエンザにかかって40℃近い熱が出て、その後ガンの腫瘍が縮小したという話を、これまでに何人もの人から聞いてきました。
 
そして最近になって、体温が38・5℃以上に上がることで感染症の治癒メカニズムが発動するとの研究発表がアメリカの医学メディアでなされました。熱は病気ではなく、体が治ろうとするための反応なのです。

発熱と、保温と

前述の発熱は反応であるのに対し、自ら積極的に発熱するのが運動。これが運動をおすすめする理由です。なにも大層なことをしなくても、手足をブラブラと動かすだけでも、寝たまま手指をグー・パーするだけでも運動です。筋肉が動けば発熱は起こります。続いて必要なのは、保温。靴下やレッグウォーマー、腹巻などで体の大事なところを守り、冷やさないよう温度を保つことです。それでも温かさが足りないときには、加温。外から物理的に温度を加えます。コンニャク湿布などのお手当てや、カイロ、入浴も加温の手段です。そして、食事。温かいスープなどで、体を内側から温めます。このとき、食材の性質にも気を配る必要があります。たとえば、トウガラシなどの香辛料は、ごく少量で温かく感じますが、多く使えば体を冷やします。テレビ番組でタレントさんが激辛メニューを食べるシーンを見ると、大量に発汗していますよね。食事そのものも運動であり、食事中は熱くなりますが、あれだけ発汗すれば熱を発散し、食後しばらくすると体が冷えるはずです。
 
温かいは、心地よいもの。「熱い」が過ぎればストレスにもなりかねませんが、「温かい」は続けていたい。そこは自分の感覚を大切にしたいところです。

- 鍼療室からの伝言 - 2019年11月発刊 vol.146

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