治療者として、痛みを抱える人と日々接しています。関節や筋肉などの運動器系の痛みというのは、動き過ぎたか、動かなさ過ぎたか、おかしな動き方をしたか、どれかが原因です。痛みは身体からのサイン。動き過ぎなら休み、動かなさ過ぎなら動くように、動き方がおかしければ変えていく。原因を探り、それを取り除きます。「動」という字は「重力」と書くように、重力と付き合っていくこと。重力に従った動きは楽で、重力に逆らった動きは負荷となるのです。それは、歩く・走るという単純な動きでも変わりません。
常識が覆る
元日のニューイヤー駅伝(全日本実業団対抗駅伝)、2日・3日の箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)で、「厚底シューズ」が話題になりました。陸上競技の世界では、ランニング初心者は着地の際の衝撃を和らげるため厚めの底のクッション性のあるシューズが適していて、上級者ほど前への推進力を高めるために底が薄く軽い靴が適しているとされてきました。ところが2年ほど前から、トップ選手たちに厚底シューズが目立つようになりました。軽くてクッション性のある素材に、カーボンファイバー(炭素繊維)のプレートを挟み込み、反発力を高めて前へと進みやすいシューズが登場したのです。今年の箱根駅伝では、全10区間の区間賞のうち、9区間の選手が着用していました。かつては上級者ほどシューズの底が薄くなっていたのが、最上級者レベルではまた厚くなる。これまでの常識が覆されたといえます。
ただしこの厚底シューズ、しっかりと鍛えていないとケガの原因にもなり得る、「諸刃の剣」でもあります。シューズの特性を生かすトレーニングをきっちりやり、準備が整った選手だけが結果を出せるといえそうです。実は昨年、私の治療院に来た中学生のシューズがこのモデルで、「まだ使いこなせるだけの走力はないだろう」と使用を中止させると、その後すぐに回復したケースがありました。とはいえ、最近のはやりからすれば、いずれ初心者向けの厚底シューズも登場するでしょう。道具の進化は著しく、上手に頼れば良いと思います。過去の常識に縛られる必要はありません。一般向きの、楽に走れる・気軽に歩けるシューズへ拡がり、それを履いて日常的にウォーキングやランニングをする人が増えれば、健康寿命の延びにも一役買いそうです。動くことを楽するのではなく、楽に動くことを考えるのがカギです。この厚底シューズに関して、国際陸上競技連盟が禁止するのではとも噂されており、競技会での着用ができなくなる可能性があり、今後の動向に注意したいところです。
高齢化社会を迎えた現代の日本では、平均寿命が延びる一方、運動器の障害により日常生活に支援や介護が必要な方が増加しています。介護予防の観点からも運動習慣が推奨されています。
動けば変わる
運動は「運」を「動」かすと書き、主体的に動くことで運命が変わることを意味します。ちょっとの散歩でも、外出の機会が増えれば人との出会いも増え、新たに知ることや、ご近所さんと挨拶を交わすことも増えます。
挨拶とは自分から近寄ること。「挨」は押す、「拶」は迫るという意味があり、古くは禅家で門下僧の悟りの度合い試す押し問答のことを指したそうです。そこから、自分が心を開くことで相手の心を開かせ、相手の心に近づく積極的な行為を意味するようになりました。「挨拶にもやって来ない」などというのは、言葉の使い方として間違っています。ここにも自分から動くことの大切さが説かれているように思います。
2020年、これまでよりもほんのちょっと、楽にでいいから動いてみることで、運が変わるかもしれませんね。