年初に「今年は変わりたい」と目標を掲げた人もいるでしょう。1ヶ月経って、いかがでしょうか。変わりたいと願っているのに、変われない? 安心してください。それは意志が弱いからではありませんよ。
状態は、変わるもの
治療では、いまある「痛み」や「辛さ」を和らげることがまず基本ですが、より良い状態になっていくための「課題」にご本人が取り組んでいただくことで、治癒へと向かうものです。
課題に取り組む姿勢によって、その人の治りたい気持ちの強さが見え隠れします。
課題は、その人・そのときによって変わってきます。炎症を起こしている急性期には冷やしてもらうし、鎮まってきて慢性期になれば温める方が回復は早くなります。
すべては常に変化していくもので、その変化に対応していくことで自分も変わっていけるのです。
免疫が邪魔をする?
変わりたいのに、変われない。実は、その理由は「免疫」が働くからです。
免疫とは、感染や病気などの原因となる生物の侵入を防いで、現在の状態を一定の範囲内に保ち、現状が崩れないように働く。いわば、現状維持のためのシステムということができます。
変わりたいけど行動できない、頭でっかちになってしまうのは、精神面でも同じような免疫のシステムが働いて、現状を維持しようとしているのかも知れません。
いろんな人の意見を参考にと聞いているうちに何をしたらいいのかわからなくなった、というようなことはないでしょうか。考えすぎて動けなくなったら、それは免疫の仕業によるものと認識してください。そもそも行動に移す前に別の人の意見を聞くというのは、実は行動したくないからであり、変わることの覚悟ができていないともいえます。
ダイエットに例えて考えてみます。
痩せたい。そのためには食べ物の質と量を考えて、運動すればいい。この程度のことを知らない人はいないでしょう。
でも、できない。なぜか? いまの自分のことを「かわいい」と言ってくれている人は、痩せた自分にも言ってくれるだろうかという不安があるかも知れないし、服だって買い替えなければならないから出費がかさむ。それなら無理して変わらなくてもいいんじゃないか。それが免役によるものです。
変わることによって得られるのはメリットだけではなく、そのことで失うデメリットもあるのです。変わることによるデメリットも受け止め、そして手放さない限りは、変われないのです。
病気やケガでも同じことが言えます。治ることによって痛みを感じなくなるというメリットがある一方で、治ることで被るデメリットも存在します。
昨年のこと、同じ病気を抱えておられるお二人の患者さんと出会いました。ともに難病といわれる疾患に長年悩まされてきて、大きな病院で知り合ってから、お互いに励ましあってきたということでした。
Aさんは、病院の治療だけでは十分ではないのではないかと、鍼灸治療に辿り着かれました。ぐんぐん元気になっていかれる姿を見たBさんは「私も」と、一緒に見えられました。
このBさん、体が回復していくうちに、周囲から「大丈夫?」と声を掛けられることが減ってきたと感じ、このまま治ってしまうと人から親切にしてもらえなくなるのではないかと不安になったようで、治療に来院される回数が減ったり、自宅で自分のケアをしてもらう課題に取り組まなくなったりするようになりました。
一方のAさんは元気になっていくうちに、以前に田舎暮らしに憧れていたことを思い出し、治療を卒業して引っ越していかれました。
変わることのデメリットを手放せなくて変わらなかったBさんは、一人で取り残されてしまったのです。
同窓会などで「変わらないね」と言われる人は、少しずつ変わり続けているものです。「変わっちゃったね」と言われる人には、劇的に変化した人だけでなく、自ら変わろうとしてこなかった人も含まれています。なぜなら、世の中が少しずつ変化をしているのですから。
「すべてのものは変化するが、変化するということだけは不変である」といわれます。
変化することを恐れずに生きたいものですね。
執筆 圭鍼灸院 院長 西下 圭一 病院勤務を経て、プロ・スポーツ選手からガンや難病まで幅広い患者層に、自然治癒力を引き出していく治療を特徴とする。 鍼灸師、マクロビオティック・カウンセラー、リーディング・ファシリテーター。 |