ことをよく思い出します。母は料理にかける時間がないほど忙しく、あまり上手ではなかったのもあり、私にはいわゆる「おふくろの味」はほとんどありません。まな板と庖丁のシーンが母の料理の思い出です。その反動からか、子どものときからテレビの料理番組を見るのがなによりも楽しみでした。画面に繰り出される色とりどりの料理は「おいしそうなものがこの世にある」という別世界を印象づけました。画面に映し出されるものと現実のギャップは「おいしいものを食べたい!」という欲求となりました。それがこの仕事に繋がっているのかもしれません。
私の仕事であるオリーブオイルの輸入販売も、今年で18年目。滞在時を含めるとイタリアとのご縁は20年以上になります。イタリア料理を知り、私はさらに生まれ変わったと言っても過言ではありません。イタリア料理とはいえ、南北に長い土地柄、北と南では全く違う気候風土と郷土色があります。もちろん料理にも顕著に違いがあります。料理屋で食べる料理は郷土色(食)を体験することはできるものの、土地に根づいた本当の郷土料理は、その土地に暮らす人が実際に食べているものを食べるに限ります。
本当にいいと思ったものを実感してからお伝えする
私は生産者とのつながりをとても大事にしています。いいものを日本に持ってきて販売する。それは簡単なことではありません。第三者にお伝えするには、私自身が本当にいい!と実感してこそ伝わります。私はいい商品に出会ったら必ずその生産者の生活の場にも入り込み、家族とふれあい、その家でご飯をご馳走になり、どのように料理し、どのように生産品を愛しているかを体感します。そこでいただく料理は、生産者との会話も含め、その地区の郷土色(食)のエッセンス、生産品への想いがたっぷり入った愛情いっぱいの家庭料理です。その味わいは料理屋では決して味わえないものです。違いは、毎日食べることができるかどうか。日本の家庭料理が、毎日同じでも飽きないのとまったく同じです。
戦後はイタリアも豊かになり肉やチーズを豊富に使った家庭料理も普及していますが、昔は、そういうものを使わないシンプルな野菜や豆だけの料理が家庭料理のほとんどだったらしく、お祭りや行事の時だけ肉やチーズをご馳走にしていだそうです。そういうものが入らないシンプル過ぎる料理は、私にとってはとても新鮮で、母が作っていた料理につながることを後になって気づかされました。野菜と塩とオリーブだけでおいしくなるシンプルなイタリアの昔から伝わる料理は、しみじみと、からだと心に染み入る味わいです。それは自分の奥にあった記憶のボタンにスイッチを入れてくれるものでした。ただ、オリーブオイルは全く新しいもので、私の中にはないものでした。
オリーブオイルの持つ素養と素材を生かす包容力は、素晴らしいの一言。今まで日本にはなかった素材です。それをまだ知らない人に知っていただきたい、というのが当初からの変わらぬ私のミッションです。
こうして考えてみると今の私があるのは、母のおかげかもしれません。今年84歳になる母は、今も健在です。親孝行をしなければと、これを書きながら切に思います。
アサクラ 代表
朝倉 玲子(あさくら れいこ)
一般企業、有機農業に携わった後、イタリアに滞在し有機農家民宿やミシュラン三ツ星レストランにて料理修業。オリーブオイル鑑定技能講座で学び、オリーブオイルの素晴らしさに開眼。本物のシングルエステートを探し、エキストラバージン・オルチョサンニータと出会い、故郷会津若松に戻り輸入開始。オリーブオイルの良さと使い方を伝えている。
http://www.orcio.jp