形成外科医として長年医業をおこなってきましたが、2013年にヴィーガン&グルテンフリーカフェ「CHOICE」をオープンさせ、さまざまな媒体に執筆・講演の機会を頂戴し、プラントリシャン※としても忙しく活動させていただいています。そのような場で多い質問が、ヴィーガンの食事で不足すると思われがちな栄養素についてです。本稿ではもっとも質問が多い「たんぱく質」についてお話しさせていただきます。私がヴィーガンについてお話しすると「肉を食べずにたんぱく質が不足しませんか?」と質問されます。「ヴィーガンでも問題なく十分なたんぱく質が摂れますよ」とお答えすると皆さん不思議そうな表情をされます。たんぱく質は肉や魚から摂取するものと思われがちですが、牛や馬、ヤギ、キリン、鹿、ゾウなど草食動物は草しか食べません。彼らのたくましい筋肉はどのように作られるのでしょうか? これこそ緑の葉っぱから十分なたんぱく質が摂れることを証明しています。
割合と質を見極める
栄養成分表を見ると、畜肉に比べ野菜に含まれる100グラムあたりのたんぱく質量は少ないのですが、そもそも栄養素の含有量を水分量が異なる食品間で比較してもあまり意味がありません。三つの栄養素(たんぱく質、脂質、糖質)が生み出すカロリーのうち、たんぱく質が産生するカロリーが何%を占めるかを比べると違う側面が見えてきます。この見方で比較すると、畜肉に含まれるたんぱく質の割合はわずかで、カロリーの多くは脂質から産生されていることがわかります。反対にブロッコリーや小松菜などの緑黄色野菜をはじめとする植物性食品はたんぱく質が多くの割合を占めています。
必須アミノ酸(人体で合成できないアミノ酸)が一つでも足りないと人体に必要なたんぱく質は作れませんが、植物でも何種類か組み合わせれば必須アミノ酸は不足なく摂取できるのです。さらに、植物性たんぱく質は消化吸収が良く、体内で利用されやすいのに対し、一般に「動物性たんぱく質」と称されている、牛や豚の筋肉や乳製品などのたんぱく質は消化されにくく、腸内で腐敗し、さまざまな病気のもとになります。総摂取カロリーのうち、動物性たんぱく質からのカロリーの割合が高いほど肝臓がん発症のリスクが高まるというコリンキャンベル博士らの有名な動物実験がありますが、今では動物性食品の摂取割合が多いほど、がん、高血圧、心臓病、脳梗塞、糖尿病、骨粗鬆症、アルツハイマー病、アレルギー、自己免疫疾患、黄斑変性などの病気の発症が多くなることが、数多くの研究で明らかにされています。
行政の取り組み
「肉の消費を少しでも減らすことが健康改善につながり、温室効果ガスの排出削減になる」との考えから、今年9月からニューヨーク市の全生徒にベジタリアンの食事を提供する「ミートレスマンデー(肉抜きの月曜日)」が実施されることが発表されました。これは行政レベルで食と健康の関係について気づき、市民の健康のために行動を始めた結果です。日本人の食事は健康的というのは過去のことで、アメリカと日本の野菜の摂取量は1990年代に逆転し、結果を裏付けるように、癌による死亡率はアメリカで減少しているのに対し、日本は上昇しています。
答えは「不足しない」
生まれたときからヴィーガンの人たちはみんな健康でたくましく育っていますし、人生の途中でヴィーガンになった人たちは以前よりも体調が良くなったことを実感します。パワフルなパフォーマンスを見せてくれるアーティストやアスリートにもヴィーガンがたくさんいます。ヴィーガンの食事は、どの年代にもどんな人にもたんぱく質が不足するということはないのです。
※プラントベースドホールフーズを軸に、ライフスタイルの改善により治療をおこなう医師