自分の子どもに安心して使わせられるものを作りたい。
そんな原点から始まったTOMATO畑の木製食器は、
この10年で着実にファンを増やしてきました。
そこから次に目指しているのが、持続可能な産業構造を広めること。
有限会社TOMATO畑 代表取締役 社長 田中秀樹氏に伺いました。
写真右:田中秀樹氏・写真左:田中栄二氏)創業者の田中栄二氏と共に。お二人で写真を撮ることはなかなかないそうで、貴重な1枚。職人として高い技術を持つ栄二氏、それを世の中に伝える秀樹氏、お二人の強い信頼関係を感じました
もともとはコンサルティングファーム出身の私がTOMATO畑に入社したのが、約10年前。きっかけはその根本理念に共感したことでした。父は伝統工芸の小田原漆器・箱根寄木細工の技能士であり、自分の子どもに使わせられる食器を作ってこそ本当の職人だという考えで、安全な食器を手仕事で作るということを大切にしています。子どもに使ってもらうには、毎日気軽に使える価格ということも大切です。日本には戦前まで、家庭に一人一膳ずつ漆器があって、塗り直しや補修をして、女性は嫁ぎ先にそれを持っていくというふうに、器を一生使う文化がありました。伝統工芸品はもともと特別なものではなく、日常にあるものだったのです。
TOMATO畑に入社して考えたのが、その背景や取り組みを段階を踏んで発信する必要があるということです。多くのことを一度に発信しても内容が薄まりますし、長くものづくりを続けられる経営基盤を作るために、お客様を増やすことも急務でした。そこで、オーガニックなどに関心の高い層に集中的に、「無薬剤の安全な木製食器」ということをお伝えしてきました。「安全」というのは、木製製品に使われる可能性がある二酸化硫黄やホルムアルデヒドなどの薬剤を使っていないということです。これらの薬剤は大量生産を可能にしますが、製品の寿命は短くなります。弊社の製品は、薬剤を使わない代わりに、煮沸消毒をおこなった後、天然乾燥の工程に1年以上かけます。さらに目止め※と拭き漆の技法による本塗りにより、見た目も手触りも良く、腐食やカビが発生しにくい器ができあがります。職人の手による伝統製法では、製品完成までに1年半以上かかります。
ありがたいことに、この10年間、TOMATO畑の製品は多くの方にご愛用いただき、認知度も高まりました。そこで次の段階として、「YOKOHAMA
WOOD」というブランドを始動しています。このブランドでは、製品を販売するだけでなく、製品の補修、職人の育成、体験、国内放置林の保護などを目指しています。そのための拠点となる工場を、2020年、神奈川県内に設立予定です。
10年ほど前からTOMATO畑の食器をお使いいただいている方は、そろそろ漆がはげたり、木がかけたりすることのある時期だと思います。それをぜひ修理して使い続けてほしい。世界に一個しかない愛用品として、一生使ってもらいたいのです。修理というのは個々の症例が違うので、より難易度が高くなりますが、そこは小田原漆器・箱根寄木細工の伝統技能を持つ弊社だからこそ対応できる点です。
また、製品をご愛用いただく次の段階として、新しい拠点は、製品ができる過程を目で見て、触って、体感していただける場にしたいと考えています。製品の安全性は数字で証明できますが、それとは別に、現場が見えるというのはすごく大事だと思っています。そこに来ていただいたお子さんから、我々の志を継いで将来の職人になってくれる子が出たら良いなあということも考えたりしています。
修理というのは、職人育成の場としても最適です。職人育成は非常に時間がかかるものです。その間どうやって生計を立てるかという問題もあります。そこで、修理で収入を得ながら職人育成ができる環境を作りたいと思っています。また、これからのものづくりでは、技術だけでなく伝える能力というものも必要だと考えています。右手に最高のものづくり、左手に最高のプレゼン能力を持った職人って、すごくかっこいいと思うんですね。そんな職人がいたら、子どもたちの将来の夢に「木工職人」が挙がることも増えるんじゃないかと思っています。
さらに、この取り組みをモデル事業とし、他の地域で同じようにやってみようという方が現れることも期待しています。そうやって日本国内の森林を守る取り組みにも発展していきたいですね。ノンケミカルな状態の森林、放置林というのは国内にも多くあるのですが、それらの木材がまだまだ流通の主流ではなかったのがこれまでです。しかし、TOMATO畑の認知度が上がるにつれて、協力したいとお声がけいただけるようになってきました。10年前にできなかったことが、今だからできる。安全食器は森林保護につながっていて、さらに持続可能な産業構造にもつながっています。10年前から目指していたことに、近づいてきたと思います。