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自由教育ありのまま

「日本でいちばん楽しい学校」で新任教師がみた子どもたち

学校法人きのくに子どもの村学園かつやま子どもの村小中学校教員

中川 愛 (なかがわ あい)

かつやま子どもの村小中学校、きのくに国際高等専修学校を経て、立命館大学文学部卒業。高校生時代に東ティモールという国と出会い、残酷な歴史を背負いながらも、笑顔が絶えない東ティモールが大好きになる。「東ティモールのことを少しでも多くの人に伝える」ことを目標に、2019年度4月から、母校であるかつやま子どもの村で教員として働いている。父は、プレマ株式会社代表取締役の中川信男。

自由ってむずかしい

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「この学校は自由だから、しんどいときもいっぱいある」。小学6年生の女の子が口にした言葉である。これは、私自身が9年間の「きのくに子どもの村学園」での生活を通して、学んだことでもある。自由であることはとても難しく、責任を伴う。それに気づかない人はとても多い。しかし、子どもの村は「自由な学校」であって、「わがままを通せる学校」ではない。この自由と向き合い、子どもたちは日々成長している。

新型コロナウイルスの影響で少しだけ短くなった夏休みが明け、子どもたちが学校に戻ってきた。先ほどの女の子から「相談がある」と教室に呼ばれ、話を聞くことになった。まだ2学期が始まったばかりだというのに、来年度に入るクラスを迷っているという。

「どのクラスを選んでも、自分のしたいことをして気持ちよく1年を過ごしたい。そういうふうに思えるようになってよかったと思う。この学校に来たころは、そんなふうに思えなかった。やりたくない活動をすることになっても、あまりなにも考えずに参加していた。でも、やってみたら楽しいこともけっこうあるって、思えるようになった」

この子は昨年度に転入してきた。本人もはっきりと自覚できるほど、この1年間で気持ちに余裕ができたようだ。悩みを話したあと、彼女から、冒頭の言葉がでてきた。「この学校は自由だからしんどいときもいっぱいある」。そのあとに、こう続けた。「たとえば公立の学校だったら、修学旅行の行き先も決まっている。行きたくないなって思うところでも、そこに行くわけで結局はラクじゃん。でもここだと、自分たちで決めるから、大変なことが多い」

選ぶことのむずかしさ

私も同じような気持ちを味わった経験が何度もある。ひとつは、高校でイギリス研修の見学先を考えているときだった。約20人のメンバーのなかで、行きたい方面が大きく3つに分かれ、ミーティングでどれかひとつに決めないといけなかった。それぞれ、行きたい場所のプレゼンテーションをして話し合った。最終的には多数決をすることになったのだが、その結果を受けて少数派だった子が泣いてしまった。しかし、話し合いはそのまま進んでいった。

私はその日、言葉にできないモヤモヤを感じながらも、どうしてよいのか、わからなかった。それ以降もモヤモヤは続いた。結局、大人に泣きながら相談し、その気持ちをみんなに伝えようと決めた。一度決まった内容をまた掘り返すような意見を言うと、みんなからどういうふうに思われるか、そんなことを考えながら発言したのを今でも覚えている。「最終的に多数決で決まるのは仕方ない。だけど、みんなが納得する計画にしたい」。そんな提案だったと思う。

もうひとつは、大学を選んでいるときだった。どの大学のホームページもパンフレットも似たような内容ばかり書かれている。日本文学と国際関係学、どちらも興味があった私は、ギリギリまで進学先を悩んでいた。「こんなことなら偏差値であなたはここにいきなさいって決めてもらったほうがよかった」。そう口にすると大人たちは、「そうだね、自由って難しいよね」と答えてくれた。

どちらも今となってはいい思い出だ。

子どもたちは自由な学校の中で、たくさん悩んで、泣いて、考えている。そしてこの苦悩が必ず大きな成長につながると私は経験を通して学んだ。そして、自由のむずかしさに気がついたとき、学校での活動はさらに楽しく、実りのあるものになるのではないだろうか。

また、大人になった今、たくさん悩んで、考えることのできる環境がとても幸せなものであると心から思えるようになった。大人になれば考える余地もなく、理不尽な事実を受け入れないといけない場面も増えるだろう。だからこそ、子どもたちには、たくさん悩みながら、自由な学校を思いきり楽しんでほしい。

- 自由教育ありのまま - 2020年10月発刊 vol.157

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