先月号で畜産業が地球温暖化に及ぼす影響についてお話ししました。地球温暖化防止=二酸化炭素の削減と思われがちですが、実は二酸化炭素の温室効果はそれほど高くありません。二酸化炭素は温室効果ガス全体に占める割合が多いために地球温暖化に及ぼす影響が大きく、反対に温室効果ガス全体の16%に過ぎないメタンは、温室効果が二酸化炭素の25倍以上あり、その排出削減は有効な地球温暖化防止策となります。メタンは枯れた植物が分解される際や廃棄物の埋め立て地から発生しますが、家畜のおならやげっぷからも発生します。地球上には約15億頭の牛がいて、牛1頭が発するメタンガスの量は1日160~320リットルにものぼります。FAO(国際連合食糧農業機関)によると、動物ベースの食事を続けることで地球温暖化への影響が18%進むとの試算があり、この数字は工業や交通の影響より大きいのです。
温暖化以外の問題
今号では動物ベースの食物の大量消費が及ぼすそのほかの問題についてお話しします。1月30日に出版された『WHOLE』第12章「リダクショニズムの社会政策」で、コーネル大学のデイビッド・ピメンテル博士は、現代の工業式畜産体制が貴重な資源の無駄遣いと環境破壊の原因となっていると述べています。博士の推定によれば、植物ベースの食物と同じカロリー数の食物を畜産により動物から得ようとすると、約5~50倍の土地と水源が必要で、飢えに苦しむ人々がいる一方で資源が非効率な使い方をされることに警鐘を鳴らしています。『WHOLE』には博士の研究結果の一部として、「動物性たんぱく質の生成には植物性たんぱく質の8倍相当の化石燃料が必要である」「アメリカ国内の家畜をまかなうためにはアメリカ国民が消費する5倍相当の穀物を必要とする」「牛肉1キログラムの生産に必要な水は10万リットルなのに対し、小麦1キログラムの生産に必要な水は約900リットルに過ぎない」「熱帯地方の森林伐採の80%が新規農地開拓のためであるが、その大半は家畜の放牧や飼料のために使用されている」と書かれています。
また、工業式の畜産では乳の出を良くしたり、身体を早く大きくするために成長ホルモンが、窮屈で不潔になりがちな飼育環境による感染症を抑えるために抗生物質が使われ、餌代を抑えるために農薬(殺虫剤)や遺伝子組み換えが施された飼料が与えられます。アメリカでは食肉や乳製品離れが進んでいて、消費するとしてもホルモン剤などを投与されていない製品を選ぶ人が増えています。医療費が高く、病気に自己責任で対応する必要があるアメリカでは、自己防衛のために安全な食品を選択する人が増え、昨年はアメリカの最大手牛乳メーカーとアイスクリームメーカーが倒産しました。国民皆保険制度が整った日本では実感がない話題かもしれませんが、消費が落ちたアメリカの工業式畜産で生産された牛肉の主な輸出先は日本であり、先進国で癌が増えているのは日本だけだと知ったら恐ろしい気持ちにならないでしょうか。
畜産業界は、農場で多大な土地と水を汚染し、加工や輸送にも多くの二酸化炭素を出すため、地球汚染ビジネスとされ、欧米では環境問題を語るうえで常識とされています。日本の若き環境大臣が気候変動サミットで訪れたNYでステーキハウスに入るところを報道されているのを見たとき、恥ずかしい気持ちになった日本人は私だけではないはずです。
『WHOLE~がんとあらゆる生活習慣病を予防する最先端栄養学』
発行:ユサブル
著者:T.コリン.キャンベル
監修:鈴木晴恵
訳:丸山清志
2,500円(税別)