前回は抗炎症作用が期待できる栄養素について書きました。炎症を抑えることの重要性は一般に知られています。しかし、動物性食品からタンパク質を摂るだけで炎症を起こしやすくなることと、その他のリスクについてはあまり知られていません。今号から2回に分けて動物性食品を摂ることの問題点と植物性食品からでも充分なタンパク質が摂取可能であることを書きます。
炎症とその他の影響
炎症とは生体に対する刺激や侵襲に対する防御反応です。動物性食品を食べることは、家畜の成長促進に使用されたホルモン剤や抗生物質、飼料に使われた農薬などを一緒に食べるということです。身体はこれらの異物を排出しようとして炎症を起こします。「天然の魚は大丈夫ですよね?」と言われますが、海は放射性物質や水銀、PCBなどに汚染されている心配があります。これらの異物は植物性の食べ物からでも身体に入ることはありますが、動物を介することで濃縮され、影響の大きい状態で身体に入りやすくなります。
動物性食品の摂取ではその他に、Ⅱ型糖尿病や動脈硬化のリスク要因となる飽和脂肪酸や食餌性コレステロールを一緒に摂ることになります。そして動物性食品には病気から身体を守ってくれるビタミンや抗酸化物質の含有が非常に少なく、食物繊維とファイトケミカルはまったく含まれません。
一方、タンパク質をプラントベースホ―ルフード(PBWF:植物性の食材をなるべく精製加工することなく食べる)で摂れば、炎症を軽減し治癒を促進し、健康を保つために欠かせないビタミンやミネラル、抗酸化物質、ファイトケミカル、そして、満腹感が得られ、便秘を避け、余分なコレステロールとエストロゲンの排泄を促してガンから保護する働きがある食物繊維を一緒に摂取できます。特に食物繊維は植物にしか含まれないので必要量を確保するという観点からもタンパク質と一緒に摂れるのは非常に効率的です。
完全タンパク質とは?
人体は水と脂肪を除くとほとんどがタンパク質でできています。骨、筋肉、軟骨、皮膚、髪、爪、免疫細胞、酵素、血中で酸素を運ぶヘモグロビンなど身体を構成するすべてのたんぱく質は、20種類のアミノ酸の組み合わせでできていて、それぞれ違う構造を持ち、異なる機能を果たしています。
20種類のアミノ酸のうち9つは体内でつくることができないので食べ物から摂る必要がある『必須アミノ酸』です。一般には必須アミノ酸をすべて含む「完全タンパク質」とされる肉、卵、乳製品を食べるのが健康に良いとされていますが、ヒトの身体はよくできていて一つの食品や一度の食事ですべてのアミノ酸を摂らなくても毎日食べるさまざまな食品から必要なアミノ酸すべてを確保し必要なタンパク質を合成することができるのです。
食べ物から摂取したタンパク質は消化管内で一旦アミノ酸に分解されてから吸収され、体内で筋肉や皮膚などに合成されます。また身体を構成するタンパク質は毎日少しずつ分解されアミノ酸に変わり、再び組織の合成に利用されます。このように合成(同化)と分解(異化)を繰り返し、余ったアミノ酸は一定量身体の中に蓄えられ(アミノ酸プール)ますが、それ以上に余った分は、有害なアンモニアになり肝臓で無害な尿素に変換された後、腎臓から尿中に排出されます。このためタンパク質を過剰に摂取すると肝臓や腎臓に過度な負担がかかり、内蔵疲労を引き起こす原因となります。
今号は動物性食品からタンパク質を摂るリスクと、植物からでも必要なアミノ酸を摂取できること、過剰なタンパク質は内臓の負担になることを書きました。次号では植物からタンパク質を摂るのがいかに理にかなっているかを中心に書きます。
※ポリ塩化ビフェニル化合物の総称。毒性が極めて強くダイオキシン類として呼称されるものの一つ