「新型出生前診断(NIPT)」がもっと多くの病院で受けられるようになりそう、というニュースが、昨年メディアをにぎわしました。妊娠・出産可能年齢の方は、頭の片隅に置かれているかもしれません。
NIPTは、妊婦さんの血液から胎児の染色体異常を調べることができる検査です。この検査が始まった当時は、本当に限られた病院でしか受けられず、今よりも高価だったはずです。それでも、私が第一子を産む前に開始されていたら受けただろうなぁと思ったのをよく覚えています。高齢出産の私は、医師に羊水検査を勧められましたから。妊娠中に羊水を採取して染色体異常を調べる羊水検査には流産のリスクがあります。流産のリスクと染色体異常のリスクを天秤にかけ、染色体異常のリスクのほうが高い年齢だった私は、検査を勧められたわけです。
NIPTなら、流産のリスクがなく、結果が陰性の場合はかなり高い的中率となります。早めに「安心したい」場合は受ける価値がありますよね。でも、何に安心……? 「自分の子に染色体異常がないとわかって安心!」です。では、もし結果が陽性だったらどうするのか。陽性の場合、的中率がやや下がり、確定診断にはやはり羊水検査が必要です。8割がたわかればいい、先天性疾患の可能性も考えて安全に産める病院を選ぼう、相談機関も産む前に調べよう、事前にわかってよかった! と、考える人は少数だと思います。NIPTから羊水検査に進んで染色体異常の確定診断を受けた妊婦さんのうち、約9割が中絶しているそうです。そして、それをあとから悔やむ人もいます。
NIPTは、もともと日本医学会認定の登録施設で実施されていました。認定には、結果が陽性の場合のフォローをおこなう体制が必要といった一定の要件があります。しかし、認定のない施設でもNIPTの実施が増えており、それが冒頭のNIPTができる病院が増えるという話につながっているようです。認定だけが安心・安全の目安ではないようですが(有機JASみたいですね)、新しい動きが出てしかるべき状況はあったようです。
デザイナーベビーの今
でもここには、どう見ても難しい問題がついてきます。本稿で書けることには限りがあるので、別の情報をつけ加えます。
昨年11月、中国で、受精卵の段階で遺伝子操作をおこなった双子の赤ちゃんが生まれたことが報道されました。いわゆる「デザイナーベビー」です。その後の国際会議で、親のHIVが子に遺伝しないよう講じられた措置と発表されたようですが、「それ以外の手段でも遺伝を防ぐことができる」「親への説明が十分ではない」などの批判を受けています。食品の遺伝子組み換えですらさまざまなリスクが心配されていることを考えると、その子たちはどうなっていくのでしょうか。現在のところ不法と目されているデザイナーベビーですが、今後、貴重な症例として注視されていくのだろうと思います。
現実的に、たとえばHIVに悩む地域の方たちが、広くその技術の恩恵を受けられるとは思いません。予想される近未来において、まだまだ高価なはずのその技術の恩恵を、誰が受けるのでしょうか。今でも、着床前遺伝子診断と体外受精を組み合わせ、産む受精卵を選ぶことは可能です。中絶を伴わないその技術にアクセスできる、資金のある層のみができる選択があり、そこに通底する価値判断も見えてくる気がします。この問題は、忘れず、問い続ける必要があるのではないでしょうか。