昨年末に「タンパク質は植物性食品から摂る」というテーマで講演の機会を頂戴しました。日曜日の朝に定期的に開催される勉強会なのですが、330名の方に聴講していただき、この数字はこの会合の最高記録だそうです。勉強会はおもに医療機関向けの検査機器を取り扱われる企業様の主催で、当日はAGEs(体内糖化度)検査の案内もありました。ご来場者からは、講演内容に加えて、AGEsへの関心の高さもうかがえました。
私のクリニックは形成外科ですが、(食)生活習慣を整え、身体全体を“WHOLE”で診て病気を予防し、治療する栄養外来をおこなっています。そのツールの一つとして、一般の健康診断や人間ドックなどでおこなわれる検査とは違う視点から体を診るいくつかの検査をおこなっています。今回はそのなかのひとつAGEs測定についてお話しします。
形成外科という診療科は、患者様のお肌を美しくすることがおもな役割です。「アンチエイジング」という言葉がありますが、老化は女性(男性も)の大敵であり、いかに老化を遅らせることができるかが大きなテーマです。糖化物質と呼ばれる生成物が生じる反応をメイラード反応といいますが、AGEs検査は、老化や病気の原因となるその糖化物質蓄積の程度を体内糖化度として非侵襲的(傷つけることなく)に短時間で測定できる人気の検査です。
健康診断結果報告のヘモグロビンA1c(HbA1c)という項目をご覧になったことがあると思います。これは血糖値のコントロール状態を診る検査の一つで、ヘモグロビンというタンパクのうち血中のブドウ糖が結合し、糖化ヘモグロビンとなったものの割合をパーセンテージで表した値で、血糖値が高い状態が長く続くほど値が大きくなります。糖化したタンパク質は、はじめは元に戻れますが、反応が進むと不可逆性となり、これを最終糖化産物(AGEs)といいます。
人体組織はおもにタンパク質から構成されているため、最終糖化産物が増加することで変性し、加齢と関係性のある疾患の誘発につながるとされています。高いAGEsの値は糖尿病、腎疾患、心疾患と関連づけられます。生きている限りAGEsは生成され蓄積され続けますが、血糖値の急激な上昇の繰り返しや慢性的な高血糖状態、糖とタンパク質の接触時間が長いほど進行しますので、加齢のほか、不規則な食生活、甘いもの、油(揚げ)もの、酸化物の摂り過ぎによってもAGEs値は上昇します。病気はある日突然やってくるわけではありませんので、身体のなかに蓄積され続ける病気の原因物質の状況を知り、いまの自分の「危険度」を知ることは重要です。
食事を変えれば体は変わる
PBWF(プラントベースホールフード:植物性の食材をなるべく精製加工しないで食べる)で健康の維持・増進が可能であると繰り返しお話ししています。一般的にAGEs値は不可逆的(改善することはない)とされてきましたが、クリニックでデータを蓄積するうちに、そうでもないことがわかってきました。私が運営するヴィーガンカフェ「CHOICE」の20代のスタッフは入社時AGEsが58歳と深刻な状況でしたが2年間CHOICEの食事を食べ続けた結果、AGEs年齢が28歳相当となり、劇的に改善しました。
たくさんのヴィーガンアスリートの方たちが、当院で検査を希望されますが、実年齢に対して非常に若い結果が出ることがよくあります。ほとんどの方は最初からヴィーガンであったわけではなく、パフォーマンス向上の手段などの目的で人生の途中でヴィーガンを選択されています。PBWFの食生活は何歳から始めても、遅いことはありません。AGEsは一瞬で測定できますので、まずご自分の状況を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。