妊娠中の時間感覚
ここ数年、時間が過ぎるのがおそろしく早いです。8月に仕事で会った人が、「もう8月だよ、今年も終わりだね」と言っていましたが、それが冗談にならないくらい、年々すごいスピードで時間が過ぎていきます。こうまで忙しいのは子育ての影響かと思っていたら、年をとると時間が過ぎるのが早く感じられる傾向があり、それは新陳代謝のスピードが遅くなるからだという仮説を読みました。体内時計は代謝速度に左右され、それにしたがうと、これが過ぎれば1日だと思う時間の長さが、代謝が遅くなるごとに長くなっていく。でも1日は24時間、1年は365日という物理的な時間は変わらないので、自分のからだの感覚より日々が早く過ぎることになる、という説です。
だとしたら、妊娠中の時間感覚は、まったく別の領域にあるのではないかと思いました。自分の代謝速度とはまったく別の、恐ろしい早さで代謝・増殖・成長していく存在がお腹の中に宿っているのだから、そのとき専用の特殊な体内時計が回っているはず。そもそも受精卵は進化の過程を反復するといわれています。魚に似た時期、両生類に似た時期、爬虫類に似た時期、原始哺乳類に似た時期と、今のヒトまで進化する過程を短い期間で通過していくと思えば、物理的な時間とはまったく別の時間が流れてもなんの不思議もありません。つわりも時間酔いだと思えば諦めがつくかもしれない……?
子どもの時間に同期する
助産師さんに聞くところによると、産む日が近い妊婦は、顔でわかるのだそうです。「言い方は悪いのだけど、どこかぼーっとした感じになる」そうで、それまでとは雰囲気が変わるから、もうすぐかな……と目に留まるのだとか。お腹の中の子の時計があと少しで生まれられるくらいまで完成しているのだと思うと、体内時計が完全に2個になるわけで、そこである種の時差ボケが生じるのは当然な気がします。
子どもをもつ前の自分はリアルに思い出せない、忘れてしまった、という話も多いです。子どもの時計と同期して、新しい時間軸のある自分になって、それ以前の経験は他人事に感じられるのかも。ただただ忙しく働くうちに過ぎていた時間が巻き戻される、妊娠・出産経験は究極のアンチエイジングだともいえます。
そう思いついてしまうと、妊娠中はもっとゆったりして、お腹の子の時間と存分に同期したほうが贅沢だったなぁと思います。私は3人の子どもを産みましたが、ギリギリまで働くパターンばかりで、大人の気ぜわしさのまま巣作りや安産できるからだ作りをするか、疲れて(疲れすぎないように)休むかのどちらかで、お腹の子どもとの一体感を意識して過ごしてみる時間はあまりもたなかったような……。
産後は授乳のペースで暮らし、新生児の時間で過ごすことになります。特に産後の養生期間は、純粋な子ども時間のみで過ごせる大変幸せな時間だったなぁと思うのですけど、妊娠中の、もっと自分のそれまでの時計が回っている時期の変化をよく観察していたら、面白い気づきがあったかもしれません。せっかくだから妊婦さんは、胎教なども考えない、なにもしないでおなかの子を感じる時間を一日のリズムのなかに確保することで、そのとき特有のなにかがないか、探っていただくのも楽しいかな、と思います。