前回は、重度の身体障害を有する方が自宅で生活するために法が用意した重度訪問介護という制度と、障害者が重度訪問介護サービスを利用しようとする際、自治体が認める支給量(時間数)が必要量を下回る場合があることをあわせてご紹介しました。今回は、自治体が認める支給量が必要量を下回る場合に、私たち弁護士がおこなう活動について、私が担当した事案を報告しながら、ご紹介したいと思います。
事案の概要
A市に居住するBさんは、若いころ消防局に勤務し、充実した生活を送っていました。ところが、友人の結婚式の二次会で海老が含まれる料理を食べたことによりアナフィラキシーショックに襲われました。その結果、一命はとりとめたものの、後遺症として、四肢の機能が全廃し、視覚障害や言語機能障害も残存しました。こうした障害のため、Bさんは、昼夜を問わず、食事、水分補給、排泄、体位交換等、日常のあらゆる営為に介添えが必要です。介添えは、Bさんの状況に応じてなされる必要があるため、1日24時間、つねに介助者が見守る必要があります。
Bさんは平日の昼間は施設に通っており、平日の夜間と土日祝日は自宅で生活しています。概算すると、Bさんは1カ月あたり約580時間を自宅で生活することになります。ところが、A市がBさんに対して支給していた重度訪問介護の量は、1カ月あたり375時間でした。すなわち、本来必要になる時間数を200時間以上も下回っていたのです。不足する200時間のうち一部は、80歳を超え、腰椎に疾患を有しているBさんの母が介護を担っており、残りの大部分の時間は、介護事業所が無償でヘルパーを派遣することで、Bさんの生活は成り立っていました。しかし、先月のコラムで述べたように、本来、必要な介護は公費によりおこなわれるべきであり、高齢の家族や、善意の事業所が負担を甘受する理由はありません。
弁護士による交渉
この事案で、私を含めた3人の弁護士がBさんの代理人となり、支給量の増加を求めてA市と交渉をおこないました。私たち弁護士は、具体的な交渉に向けて、Bさん、Bさんの母、介護事業所のスタッフ、主要ヘルパーなどと協議を重ね、役割分担をおこないました。Bさんには、主要ヘルパーと協力して、障害の状況や現在の生活等について書面にまとめてもらいました。介護事業所には、これまでのBさんに対する介護状況を整理してもらい、Bさんの母や介護事業所が実際に担ってきた1カ月あたりの介護の時間数を整理してもらいました。また、今後の介護計画も作成してもらいました。
弁護士は、Bさんに24時間の介護が不可欠であることを立証するため、ヘルパーの方が日々作成する介護記録を分析・整理しました。また、弁護士自身が実際の介護をイメージできるよう、泊まり込みで介護状況の観察もおこないました。そして、24時間介護の不可欠性を論ずる膨大な弁護団意見書を作成しました。私たち弁護士が、こうした書面の提出とあわせてA市と交渉した結果、最終的にA市はBさんに対して1カ月あたり614時間の支給を決定しました。これにより、Bさんに対する途切れない重度訪問介護の提供が実現しました。
人生のデザイン
人は誰でも、障害の有無にかかわらず、自己の人生をデザインする自由を有しています。Bさんは、もともとの社交的な性格も手伝って、支給量の増加後、積極的に外出するなど充実した社会生活を営んでいます。このように、誰もが自己の人生を自由にデザインできる社会を実現するために必要な法的実践を重ねることが、私たち弁護士に与えられた使命に違いありません。