今回は、私が原告代理人として活動中のある裁判を、少し単純化してご紹介します。
この裁判の原告は、先天性ミオパチーという障害を有する20代の男性です。この障害により全身の筋力が低下している原告は、普段車椅子で生活しています。原告は、身体上のハンディキャップを有するものの、幼いころから漫画家となることを夢見ていました。そして、京都市立の美術工芸高校で学び、その後、京都精華大学のマンガ学部に入学しました。しかし、原告の身体上のハンディキャップは、そのまま表現上のハンディキャップともなりました。たとえば、身体の可動域が狭いため、大きな紙に絵を描くことが困難なこと。また、漫画を描くためには事物をさまざまな角度から観察することが不可欠ですが、原告は自ら立ち上がることができないため、限られた角度から事物を観察することしかできませんでした。こうしたハンディキャップを克服する方法として考えられたのが、電動リフト付きの車椅子です。これにより、絵を描く手の高さや事物を観察する目線の高さを自由に変えることができるのです。
補装具費の支給の仕組み
さてここで、以前も紹介した「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」の規定が重要になります。
この法律では、障害を有する人などの申請があった場合、障害者が生活するうえで必要な「補装具」の費用を自治体が負担する仕組みが定められています。特別な機能を備えているものはさておき、通常の義肢や補聴器、歩行器などが補装具に該当し、その費用を自治体が支給することになっているのです。電動車椅子も補装具の一種です。では、電動リフト付きの車椅子は補装具に該当するでしょうか。それは、申請者の障害の状態などの個別事情に基づき、判断されることになります。
原告の申請と自治体の決定
原告は、障害者総合支援法に基づき、電動リフト付きの車椅子の費用の申請をおこないました。ところが、申請を受けた自治体は、電動車椅子自体の費用支給は認めたものの、電動リフト部分の費用支給は認めませんでした。
しかし、先に述べたように、身体に大きなハンディキャップを有する原告が就学し、将来漫画家として活動するためには、電動リフトが不可欠です。また、原告に限らず、一般に車椅子を利用する障害者は、日常生活を送るうえでさまざまな不便を被っていますし、障害を有しない人から常に見下ろされる形になるため、屈辱感を覚える方も少なくありません。そこで原告は、この自治体の決定は違法であるとして、その決定の取り消しと、電動リフト部分の費用支給を求めて訴訟を提起しました。
燃えよ裁判
訴訟提起から既に3年以上が経過していますが、訴訟はまだ続いています。私を含めた6名の弁護士が、原告の弁護団を構成しています。これまでは主に書面により主張や反論がおこなわれてきましたが、次回は、裁判所が実際に車椅子の現物を見ることで、その機能を確認することになっています。
原告は、既に大学を卒業しました。自治体からの費用支給は受けられなかったものの、電動リフト付きの車椅子を制作してもらい、現在、それを利用して漫画制作やライブペイントなどの活動をおこなっています。そして原告は、自身のこの裁判を漫画化し、連載しているのです。タイトルは、『ジョニーの燃えよ裁判』。現在、第7話まで完成しています。
裁判同様、漫画の連載もまだまだ続きます。漫画はインターネット上で誰でも読むことができますので、ぜひ検索してみてくださいね。