弁護士の仕事の多くは、現存する法律を解釈・適用することにより、具体的な事案を解決することです。
しかし、当然のことではありますが、現存する法律も万能ではなく、問題のある法律も少なくありません。また、法律の不備が問題となるケースもあるでしょう。そのような場合、新しい法律を作ったり、現存する法律を改正したりすることが求められます。そして、そうした立法を行う国家機関が、国会です。
もっとも、国会議員は法律の専門家とは限らないため、実際の法律の多くは、内閣が法律案を作成し、国会で承認を得る形式をとっています。他方、内閣が法律案を作成する過程において、法律の専門家である私たち弁護士が関与する場合があります。
そこで今回は、最近、私が弁護士として法律の改正に関与しているケースについて、少しご紹介します。
行政不服審査法
現在、改正が議論されているのは、この連載でも何度か取り上げたことのある行政不服審査法です。行政不服審査法は、審査請求という制度をはじめ、裁判所ではなく行政機関に対する不服申立ての手続が規定された法律です。審査請求は、一般には、裁判と比べると、手続きが簡易・迅速であると言われます。また、裁判所での裁判が公開されるのに対して、審査請求は非公開で審理がおこなわれるので、プライバシーに関する情報が他人に知られる心配はありません。さらに、訴訟を提起するには訴訟費用がかかりますが、審査請求は無料です。このように、審査請求は裁判所の裁判よりも手軽に利用できる制度設計になっています。
ところで、この法律は、平成28年4月に大きな改正があり、審査請求の手続が大きく変わりました。改正の目的は、主として、審査機関の中立性を確保することや、不服審査制度の使いやすさを向上させることでした。
もっとも、これは大きな改正だったため、改正後の運用状況を踏まえて、さらに見直しをすることとされ、さしあたりの見直しが、改正の5年後と決められたのです。そして、今年の3月で改正から5年となりますので、ちょうどこの法律の見直しをおこなう時期を迎えるわけです。
日弁連・弁護士会の取組み
この見直しに向けて、最近になって、総務省が見直しに向けた論点整理に関する検討を始めました。具体的には、行政法学者を構成員とする検討会を設けて、自治体や関係団体等にヒアリングするなどして、まずは論点整理をすることになっています。
そして、この関係団体として、日本弁護士連合会(の有志)もヒアリングの対象となりました。そして、昨年12月、日弁連の行政問題対応センターに所属している数名の弁護士が、検討会へのヒアリングに応じ、弁護士側が考えている行政不服審査法の制度上および運用上の問題点について、プレゼンをおこないました。私もそのメンバーの一人として、ヒアリングに参加しました。
総務省のヒアリングについては終了しましたが、日弁連は、行政不服審査法の見直しについての検討を継続し、今年の5月には、大きなシンポジウムを開催する予定です。
また、私が所属している京都弁護士会でも、この法律の運用状況などについて、独自に検討をおこなっています。具体的には、京都府下の自治体との間で審査請求の運用に関する意見交換会をおこない、運用上・制度上の問題を整理したり、具体的な改正のあり方について議論したりしています。
弁護士の仕事の多くは、現存する法律を解釈・適用することにより具体的な事案を解決することではありますが、以上述べてきたように、現存する法律の問題点を調査・検討し、法改正や新しい法律の制定に向けた取り組みをすることもまた、法律の専門家である弁護士の役割の一つと言うことができるでしょう。